「次に『Flower Life』の従業員についてだが……坊主、この写真を見てほしい」
スケッチブックの上に写真を並べられる。
そこにはいつもおれに優しく声を掛けてくれるおばあちゃん店主から、店で見たことのある数名の従業員がそれぞれ写真に写っていた。
曰く、アルバイトを含めて5名が『Flower Life』で働いているらしい。
益田警部は写真を指さして、会話をしたことがある従業員、したことがない従業員、そもそも顔すら知らなかった従業員に分けてほしいと頼んできた。
言われたとおり、おれは写真を分けていく。
「坊主が会話したことがあるのは、花屋の店主『渡壁 雅子』。正社員の『斎藤 佳那』。アルバイトの『福島 朱美』。全員、店内で接客している従業員だな。残りは配達運搬を任されている男性のアルバイトだが、坊主は会話をしたことがないと……見たことはあるんだな?」
おれは小さく頷いた。
あの花屋さんに男性がいることは知っていたけど、お店の商品を運んでいる姿しか見たことがなかった。接客をしているところも見たことはない。お客さん対応はいつも女性陣がしていたイメージだ。
と、兄さまが難しい顔をして男性従業員の写真を見やる。
「見たところ、男二人は俺と同い年ぐらいだな」
「ちと年上だな。どっちも二十代後半でフリーターだ。殆ど店内作業はせず、配達運搬をしている。坊主が会話したことがないのも無理はない」
「接点がなくとも、店内の会話くれぇは聞けそうだがな。那智のストーカーは、弟の欲しがっていたカモミールが贈ってきた。それを知れる機会ってのはそうねえと思う」
兄さまは花屋の従業員全員に疑いの心を持っているみたい。
とくにおれを刺した通り魔は男性。ストーカーしてきた人と同一人物なら、まず花屋の男性従業員に疑いの心を向けるよね。普通。
(ただ、おれは刺される瞬間『下川の弱点』という言葉を聞いた……つまり、犯人は兄さまを知っている?)
考えれば考えるほど、頭がこんがらがってくる。もっと頭が良ければなぁ。
(なにより、兄さまはカモミールのことで引っ掛かっていそうだな)
あ、そうだ。
カモミールが欲しくなったきっかけについて、ひとつ話せることがある。
おれは一枚の写真を手に取ると、兄さまと益田警部の前に差し出した。