「ああ。俺の記憶じゃ那智が『Flower Life』に通い始めたのは、五月の終わりごろだったか。那智が花に興味を持ち始めたから、大学帰りに待ち合わせをして一緒に入ったのがキッカケだったはずだ」

「なるほどな。坊主、どれくらいの頻度で通っていた?」

 おれはうんっと一思案すると、スケッチブックに『月に4から5回』と答えた後、その時は必ず兄さまのバイトがない日だと付け加えた。

 その理由は簡単、兄さまと一緒に帰りたかったから。

 『Flower Life』は兄さまの通う大学のすぐ近くにある。
 せっかく近くまで来たんだから、やっぱり大好きな人と一緒に帰りたいもの。

 だから『Flower Life』で時間を潰して、兄さまの講義が終わる頃に大学の正門へ赴いて、兄さまを待つようにしていた。それは兄さまが一番よく知っている。

「兄ちゃんのバイトがある日は避けていたってことだな?」

 うん。おれは頷いた。

「バイトがある日に店に行ったことは?」

 首を横に振る。
 『Flower Life』に行く時は必ず兄さまに連絡をしていたし、おれも事前にバイトがあるかどうかの確認をしていた。

 兄さまは優しいから、いつもおれを優先してくれる。
 もしも兄さまのバイトがある日に『Flower Life』へ行ったら、それこそバイトを休んでおれと一緒に帰ってくれるだろう。それは申し訳ない。

 かといって、兄さまに隠れて『Flower Life』へ行こうとも思わなかった。
 花や植物を見るのは好きだけど、それは兄さまと一緒に帰る日でも見ることができるし、我慢できないほど花に嵌っているわけでもなかった。
 なにより兄さまに秘密は作りたくない。おれは嘘が下手だ。すぐにばれることは明白だった。

 だからバイトがある日は避けて、バイトがない日に『Flower Life』へ行っていた。

「講義が終わってから、というと基本的に午後に通っていたってことになるな。具体的な時間は分かるか?」

 うーん、具体的な時間。
 講義に合わせてお店に通っていたし、おれも16時まで図書館で勉強することも多かったから、大体17時から18時の間かな。
 兄さまと合流した後は、二人でよく買い物や外食をしていたよ。