「坊主が喜んでくれてなによりだ。兄ちゃん、おめぇはそれを捨てるんじゃねえぞ。せっかくお揃いを貰って喜んでいる坊主が泣くぜ?」

 顔に出ていたみたい。
 ハッと我に返るおれの側で、兄さまが大きなため息をついていた。

「益田、まじイイ性格してやがるな。那智を味方につけやがって」

「なあに。おいちゃんはおめぇさん達のうつくしい兄弟仲を応援したいだけだ。あとお前さんが拗ねないようにしねぇと。弟にだけ贈り物なんて不公平だろ? 兄ちゃん」

「……てめぇ」
「つまり、お前さんも俺から見たらガキってことだ」

「くそ。お前のことが苦手で仕方がねえよ」
「それは光栄なこった」

 へらりへらりと笑う益田警部に、兄さまは苦い顔を作るばかりだった。

 珍しい光景だった。
 兄さまはどんな大人に対しても冷静で、感情を表に出すことは少ない。
 おれとふたりになるとその大人に対して感情的に怒ったり、鼻で笑って馬鹿にしたり、喜怒哀楽をはっきり出すんだけど……大人に子ども扱いされて、翻弄されている兄さまは本当に珍しい。

「さて坊主。まずは坊主のフルネームをおいちゃんに教えてくれるか?」

 事情聴取が始まる。

 益田警部から切り出された質問に頷き、おれはスケッチブックにぎこちなくボールペンを走らせた。相変わらず体はこわばるけれど、声を出すよりもずっとスムーズに答えられた。

 フルネームを答えた後は誕生日、好きな季節、苦手な食べ物、得意なことを聞かれた。
 最初から事件のことを聴かないのは、おれの緊張をほぐすためなんだと思う。もたもたと書いても警部さん達が何も言わないでいてくれるから、安心して自分のペースで答えられた。兄さまが傍にいてくれるのも要因の一つかな。

「坊主。お前さんが『Flower Life』に通い始めたのはいつごろだ?」

 それなりにボールペンを持つ手が温まった頃、益田警部が事件に関連性のある話題を出した。
 ストーカー事件の内容に踏み込む前に、おれが行きつけにしていた花屋について情報を得たいみたい。

 おれは動きを止めて、スケッチブックを見つめる。そしてボールペンを走らせて答えた。

「『兄さまが大学に入学してちょっと経ったくらい』か。兄ちゃんは去年大学に入ったんだっけ?」

 益田警部が兄さまに視線を投げる。