おれの返事に二度、三度益田警部が頷くと、おれと刑事さんを交互に視線を流して、少しだけ考える素振りを見せる。

 そして思いついたように勝呂刑事や柴木刑事を呼びつけると、何やら彼らに指示をして事情聴取のために準備を始める。
 てっきり適当に紙とペンを用意して、すぐに事情聴取をすると思ったのに……準備のために勝呂刑事や柴木刑事が病室を出て行ってしまったものだから不安になってしまった。

(事情聴取に準備がいるんだ……お話をするだけと思っていたんだけど)

 兄さまも同じ気持ちだったみたいで、警部さん達を怪訝な顔で見守っていた。


 三十分足らずで刑事さん達は帰って来た。
 彼らは手頃なスケッチブックと、手触りの良いボールペンをおれに渡してくる。スケッチブックはどこにでも見かけるようなものだったけど、ボールペンは百均でみるようなプラスチック製のものじゃなく、木製の立派なボールペンだった。高そう。でもかっこいい。

 益田警部は木製のボールペンケースと一緒に、それをおれにくれた。

「これから何度も、お前さんと筆談することになるだろうからな。これくれぇ立派なボールペンを贈ってやらねぇと。坊主、それは兄ちゃんとお揃いだぞ」

 ボールペンやケースをしげしげと眺めていたおれの耳に、思わぬ言葉が飛び込んでくる。

 兄さまとお揃い? それはほんとう?

 益田警部を見つめた後、ゆっくりと兄さまに視線を移す。
 何とも言えない顔をしてボールペンケースを見つめている兄さまがそこにはいた。

「益田。何を考えてやがる」

 なんて独り言をぶつくさ呟いている。
 そんな兄さまの服を握って、本当にボールペンがお揃いかどうかと見せてほしい、と仕草で訴えた。

「ほら」

 兄さまがボールペンケースと中身を見せてくれる。

 何もかも一緒だ。
 おれと兄さまはおんなじボールペンをお揃いで持っているんだ。

 ついつい心が踊ってしまった。兄さまとお揃いを持つなんて、今までに無い経験だったから。

「お揃いってのはいいもんだ。見えねえ繋がりを可視できる」

 益田警部がスツールを持って、ベッド傍にいる兄さまの隣に並ぶ形で座った。
 可視という意味が分からずに困惑していると、「肉眼で見えることだ」と兄さまが教えてくれた。つまり益田警部はボールペンを通しておれ達の繋がりが目に見えるようになったよ、と言いたいらしい。

「見えることで強くなることもある。兄ちゃんと同じものを持っていれば、たとえ何が遭っても乗り越えられる気がするだろ?」

 おれはボールペンと兄さまを何度も見比べた。
 お揃いが無くったって、おれと兄さまの繋がりは絶対だと思っている。
 どんなことがあろうとおれは兄さまを一番大好きな人と言える。言えるけれど、目に見える繋がりがあると安心できるのも確かだった。

 他人から貰ったものだけど……兄さまもおなじものを貰っているし、なによりも大好きな人とお揃いで何か持っているなんて、すごく嬉しい。