【7】
通り魔にお腹を刺されて二週間余りが経った。
ようやっと一人前分のお粥を食べられるようになったおれは、長時間活動が苦にならなくなっていた。
それこそ目が覚めたばかりの頃は食事をするだけでもしんどくて、食べたらすぐに眠る生活をしていたのだけれど、今は眠る回数も減っている。
傷口のせいで微熱は続いているけれど、体は少しずつ回復に向かっているんだと思う。兄さまは回復していくおれに、すごく喜んでくれた。
「今日も、おいちゃん達と話せそうにないか。坊主」
回復に向かっている一方で、おれは警部さん達から連日のように事情聴取を受けている。
通り魔の正体はおれをストーカーしていた人間だと推測されている。当然、警部さん達はおれの身の回りのことを聞きたい。小さな情報でも解決の糸口になるかもしれないのだから。
それは分かっているし、おれも協力したい気持ちはある。犯人がいつまでも捕まらないって、やっぱり怖い。またいつ刺されるかも分からないし、おれが事件に遭ったせいで兄さまにいっぱい迷惑だって掛けているんだから、ここは少しでも情報を渡すべきだ。
分かっている、分かっているんだけど、ここ数日のおれは他人と会話が難しくなっている。
他人を前にすると、どうしても声が出なくなってしまうんだ。
もちろん、声が出ないわけじゃない。兄さまとふたりっきりの時はちゃんと話すことができる。
だけど、まったく相手のことを知らない他人を前にすると、魔法にでも掛かったかのように体がこわばってしまう。どうしても恐怖心がぬぐえないんだ。
お腹に受けた痛みが強迫観念にとらわれてしまう。また、他人からあの痛みを受けるんじゃないかって。
そして、刺された痛みがお母さんの暴力を思い出す。傷付けられるんじゃないかと怯えてしまう。これのせいで担当医にまで口が利けないのだから、おれは本当に臆病者だよ。