「俺はストーカー野郎が羨ましい」
「うん」
「お前に傷を付けたことが妬ましい」
「うん」
「那智のことはずっと俺が見ていたのに」
「うん」
「ほしいよ。俺も、那智に傷をつけたい」
「痛いのは嫌いだけど、兄さまなら我慢します」
「お前を、兄さまにぜんぶくれるか? 俺はお前をどこにもやる気はねえぞ」
「――はい」
満面の笑みを浮かべる那智に誘われ、誘われて、気付けば無我夢中でそれを掻き抱いていた。
柔らかそうな肩肉に噛みつき、必死にそれに傷を残そうとしていた。
理性が崩れても、腹の傷は考慮していたみたいで、噛む場所は肩口に留まった。ばかみたいにそこに歯形を残そうとしていた。
歯形ができる度に、うっとりとしてしまうもんだから救いようがない。
「くぅっ……」
あと、痛みに耐える那智の声に興奮するってどういうことだ。
俺は弟をそういう目では見ていないんだが……確かに那智のことをほしいっつったけど、あくまで性的な意味じゃなくて、人間的な意味なのに。なのに。どうしてこんなにも欲しくなるんだ。
俺は噛み続ける。
血を分けた、たったひとりの弟を。
「にい、さま。ごめんね、ひとりにして。怖い思いをさせて。怪我して、ごめんね。いい子、にいさま、いいこ」
もう怖くないよ、だいじょうぶだよ。
やさしい弟はそう言って、いつまでも俺の行為を甘んじた。頭を撫でてきた。逃げずにいてくれた。
那智は分かっているんだな。どうして俺がここまで弟を「欲」しがっているのか、その本当の理由が。まじで敵わない。那智にはほんと。
明日もお前をくれ、と言えば、きっと那智は笑顔で叶えてくれるんだろう。残念な兄さまは、当たり前のように遠慮なく我儘を言うよ。
だって俺の我慢を蹴ったのは、お前なんだからさ。那智。