「わぁあ! 綺麗に割れた!」

「定規ってのは測るだけの道具じゃない。工夫次第で、切る道具になるんだ。こうしてパンを割ることもできるし、紙を切ることもできるんだぜ?」

「えー? おれ、定規は一つしか持っていませんよ」

 那智の想像の中では、ハサミのように定規を使うのだと思っているようだ。小学生らしい発想に笑い、俺はいらないプリントを使って紙を切ってみせた。

 定規をしっかり押さえ、切りたい箇所を切るために、紙を手前に引くだけの簡単な作業だが、それだけで那智は目を輝かせた。

「兄さま、兄さま。おれもしたいです」

 定規を渡してやると、新しい玩具を見つけたように紙を切って遊び始める。さっそくメロンパンは放置かよ。俺と一緒に食べたかったんじゃねーの?

「あ。これ、宿題のプリントでした」

 しかも、夢中になり過ぎて宿題のプリントを切りやがる。

「おいおい那智。宿題を切ってどうするんだよ」

「うーん……兄さま。定規でなんとかなりません?」

 無茶ぶりもいいところだ。
 さすがにそれをくっ付けてやることは、テープでもない限りだ。那智もそれが分かっていて、話を振っているんだろう。

 さっきまでビィビィ泣いていたくせに、生意気だなおい。

 真っ二つになった宿題のプリントを、さして問題視することもなく那智は定規をその場に置くと、思い出したかのようにメロンパンの袋を開ける。

 綺麗に割れたパンの片割れを俺に差し出し、もう一切れに勢い良くかぶりついた。

 それは、それは幸せそうに頬張っている。

(もっと那智に色んなパンを食べさせてやりたいな。きっと、大喜びで食いつくはずだ。こんな生活を強いられているせいで、那智は満足にパンも菓子も食べられない)

 俺だって、好きな食事にありつくことができない。
 周りの人間達のように、あれこれ自由に献立を決めて悩んでみたい。

 食べたい時に肉を食べたり、魚を食べたり、菓子にありつきたい。

 周りの人間から見れば、俺達は大層惨めな人間として哀れみの目を向けられるんだろう。

 冗談じゃねえ。俺達は惨めな人間で終わらせるつもりなんざねえよ。