「なにより、坊主が襲われた時、兄ちゃんが傍に居た。ストーカーなら分かっていたはずだ。坊主の兄貴がお前さんだってことが。本当に好意を寄せているなら、もう少し慎重になるだろうよ」

 それこそ、ひとりになったところを襲う。
 それがテンプレだと益田は語る。

「坊主を性的な目で見ていたなら、なおさらだ。なのに大通りの昼下がりに事件を起こしやがった。目撃の恐怖なんざ念頭になかったのか。それとも目撃させることこそが、目的だったのか」

「目撃させることこそが?」

「事件当日。犯人はお前さんの脇を通り過ぎて、坊主を刺した」

 そう、わざわざ俺の脇をすり抜けて那智を刺した。
 捕まる可能性もあっただろうに。取り押さえられる危険もあっただろうに。

 まず根本的な疑問。
 なんで那智を刺したのか、そこがまず不可解だ。
 仮に好意を寄せ、性的な目で見ているなら犯したい気持ちの方が強いだろうに。感情を持て余した結果、殺して自分のものにしようって考えに至ったのか? それにしては行動の理由が薄い。

 そして那智の言っていた『下川の弱点』に――益田の言う、目撃させることが目的だとしたら。

「俺の目の前で那智を刺すことが、真の目的だってことか」

 考えるよりも先に出た結論は、怒りと憎しみで脳みそがイカレそうだった。
 下川の弱点。下川を「俺」だと過程するなら、「弱点」は那智のことを指している。
 俺の目の前で那智を刺すことが、本当の目的だとしたら、行動の起伏が激しい理由に少しだけ納得がいく。

 つまり「那智」を通して、本当の目的は「俺」――なるほどね、だから益田は俺の行動を詳細に聞いてくるわけか。

「那智のストーキングは建前の可能性が高い。合っているか? 益田」

「結論を出すには少々早いぜ。ただ『坊主』を理由にストーキングすれば、兄であるお前さんは遅かれ早かれ行動に移す。犯人はそれを見越していたんじゃねえかと俺は睨んでいる。けどな」

「まだ何かあるのか?」
「警察署に坊主の写真が送られてきた話は憶えているか?」
「ああ。今朝送られたそうだな」

「なんで警察署に送ってきたのか、俺には分からない。ンなことをすれば、警察が多大に警戒するだろ? ただでさえ、ばか共のせいで世間から大バッシングされてるんだぜ? そこに話題性のある写真を送りつければ、当然警察は名誉回復のために動く。犯人はお前さん方兄弟に対して、迂闊に近づけなくなる」

 警察に対する挑発にしては、軽率な行動に見えて仕方がないと益田。
 軽率な行動の裏で他に目論見があるのやもしれないが、行動の起伏が激しいせいでまったく目的が見えないとのこと。