「あんた。遠慮ねーな」

「おいちゃんは空気を読む親父なんだよ。同情されたくねーってツラの人間には、率直な感想を口にするって決めているんだ」

 どうやら俺の顔は正直者らしく、この親父に心を見透かされている。
 あーあーあ、益田は苦手な人間で確定した。できることなら敵に回したくねえ。

「今日の様子じゃあ、坊主は俺達と仲良く会話してくれなさそうだな。兄ちゃん、あんたがお願いしてもダメか?」

「那智は人見知りが激しい。受け答えできる人間は限られている。あいつは人三倍、他人に対して臆病だ」

「兄貴は人三倍、警戒心が強いのにねぇ」

 こりゃまた痛いところ突きやがって。皮肉か。

「坊主のストーカーについてだが。犯行が始まったのは、坊主が見知らぬ人間に追い回された日だと聞いた。その日から写真が送られてきたことも」

「んで。一週間続いたから警察に相談しに行ったが、相手にされなかった」

 たっぷりと毒をまぶして言葉を投げてやると、益田から疲労まじりのため息が零れていた。
 あのばか共のせいで、捜査がやりにくいと愚痴を呟いている。

「兄ちゃん。写真が送られてから数日、お前さん兄弟はどうしていた? 警察の相談は置いておいて」

「那智は殆ど家に引き篭もっていたし、俺も極力は傍に居た」

 どうしても家を出なければいけない時は鍵を掛けるようにしたし、那智にも誰が来ても開けるなと注意を促した。どこで見られているか分からないから、カーテンを閉めていることが多かったと思う。
 俺が家を出た後の目的地といえば、大学か、バイト先か、スーパーのどれかだ。大した場所には行ってねえと思う。

 それを伝えると、さらに俺の行動を事細かに聞いてきた。
 那智のことを聞きたいわけじゃないのか? 益田は。
 怪訝な顔を作っていると、益田が人差し指と親指を立ててきた。

「兄ちゃん、ストーカーには二種類いるって知っているか?」

「二種類?」

 ぎゅっと眉を寄せる俺に、「好意と悪意の二種類だ」と益田。

「片や相手がどうしようもなく好きで、一から十まで物にしたいタイプ。片や相手がどうしようも憎くて、地の果てまで追い駆け回すタイプ。大抵、この二つに絞られる。お前さんは今まで前者だと思っていたんだろう?」

「ああ。あの那智の発言を聞くまではな」

 俺は今まで那智に対して絶対的な好意と性的な想いがあって、那智がストーキングされていると思っていた。
 律儀に写真を送り続けてくるうえに、那智の欲しがっていたカモミールを知っていた。性的なメッセージカードまで同封されていたら、そりゃあ異常な好意を持っていると思い込んでしまう。

 けど、今それが疑問形になってしまっている。

「『下川の弱点』。刺される瞬間、那智はそれを聞いている。どう聞いても、那智に向けての言葉じゃない」

 那智と繋がっている俺に向けた言葉に聞こえる。

「坊主のストーカーは妙な点が多い。身を隠すように写真や防犯ブザー、カモミールを送りつけて、好意をアピールし続けていると思ったら、手のひらを返したように大通りで刃傷事件を起こした」

 そのとおりだ。
 那智につきまとうストーカーは、粘着質が高いわりに行動が読めない。俺達にご丁寧な写真を送り続けた一方で、急に大通りで刃傷事件を起こした。行動の起伏が激しい。