「何しに来やがった。出て行け」
お呼びじゃねえんだよ。一度でも見舞いに来て欲しいなんざ言ったか?
「突然、来て悪いな。坊主の目が覚めたと聞いてな」
嫌悪感丸出しの俺に、臆することなく益田が話を切り出す。
出て行くよう怒鳴っても、向こうは引くことを知らない。むしろ予想していた反応だったのか、三人が深く頭を下げて来た。それはストーカー被害についての謝罪だった。後日、担当した警察官が詫びに来るそうだが、正直顔も見たくない。許せない連中がここにいる、それだけで吐き気を催しそうだ。
「少し、坊主に話を聞きたいんだ。今回の事件をひっくるめて、ストーカー被害に遭っていた数日間のことを」
「ンなの、警察署の連中に聞け。話したことがすべてだ。さっさと出て行け。弟は目を覚ましたばかりで、まだ体調が良くねえんだよ」
そうでなくとも、警察と話すことなんざねえ。どうせ、また笑うだけだろうが。
「坊主のストーカー被害について、今後は俺が担当する。おめぇら兄弟のことは、俺が責任を持つ」
「事がでかくなった途端これだ。隠蔽ができなくなったから、今度は汚名返上でもしようってか? 冗談じゃねえよ。もう、警察に世話になるつもりはない」
すると、勝呂が口を挟んでくる。
「今朝、警察署に弟さんの写真が送られてきました」
なん――て?
「勝呂!」
一喝する益田によって、病室は静まり返った。
勝呂は三人の中で一番歴が浅い、未熟な刑事のようだ。被害者の前で失言したことに、うろうろと目を泳がせていた。
けれど、俺の意識は完全に別の方へ囚われていた。
警察署に那智の写真? なんで警察に? それはもしかして……怒りよりも先に、疑問がこみ上げてくる。
俺は混乱する頭で、必死に状況を整理しようとした。
「……その写真の中にメッセージは入ってたか?」
ようやっと出てきた言葉はこれだった。
俺は益田に聞く。写真の束と一緒にメッセージは入っていたかと、もしも入っていたなら、それは性的な内容だったか、と。
「ああ。写真と同封されていたよ。英文でメッセージが綴られていた。内容は察する通りだ」
思わず拳で壁を叩いてしまう。
なるほどね、益田達がストーカー被害を引き継いだ真の意味を察した。くそったれ。
ストーカー野郎は捕まっていない。那智を刺した犯人も捕まっていない。前者と後者は同一犯だと考えるのが筋。その一方で警察署に那智の写真を送りつける挑発的なことをした。性的なメッセージカードと一緒に同封して。
つまり、この事件は何も終わってねえってことだ。
(いまも那智は狙われ続けている。こんな怪我まで負わせておいて、まだ繰り返そうとしているのか)
怒りで頭が狂いそうだ。
執拗に那智を狙う、犯人の心情が分からねぇ。