間が悪いことに、『通り魔事件』の特集が流れていた。
大げさな文字フォントで【新事実発覚、少年は数日前にストーカー被害に遭っていた!】と表記されている。
それは俺がマスコミに流したわけじゃなく、鼻の良い記者が嗅ぎまわって、那智のストーカー被害の情報を掴んだようだ。
ワイドショーのMCや専門家が、好き勝手に被害者の精神面を心配し、警察の失態に非難を浴びせていた。
観ても気分が悪いだろうに、那智は画面をじっと見つめている。
「兄さま。この人達は変ですね。どうして、おれは心配されているんですか」
俺がリモコンを取って、チャンネルを替える一連の流れを眺めながら、那智は心底不思議そうな顔を作った。
「理不尽で重たい怪我を負ったから、こんなにも心配されているんでしょうか?」
だったら、どうして虐待をされていた時は、ストーカー被害に遭っていた時は、心配をされなかったのか。他人の心配する基準が分からないと那智は唸る。
「いつも兄さまだけでした。おれを親身に心配して、助けてくれたのは……今回だって、兄さまをやつれさせてしまうほど心配させてます。その一方で今回の事件だけ、他人から心配されるなんて変な気分です」
理不尽な犯人の行動、警察の失態に怒り、被害者に哀れみを向ける他人の気持ちが、自分には理解できないと那智は語る。
その顔は、本当に複雑な顔をしていた。
俺は目を細め、サイドテーブルにカップを置き、弟の頭を撫でる。
「那智。考えるだけ無駄だ。俺達にはきっと理解できないことなんだから」
いや、理解しちゃなんねーことだ。出掛かった言葉をゆっくりと嚥下する。
「お前が考えるべきことは自分の体だ。しっかりと治して、元気になってくれよ。お前のことは、今度こそ兄さまが守ってやるから」
それこそ、どんな手を使っても。
お前は俺の大切な家族なんだから。安心して傍にいられるよう、環境を作ってやらねーと。
仄暗い感情を抱いていると、病室の扉をノックする音が聞こえた。
「看護師か?」
まだ、夕食にしては早すぎる時間なんだが。点滴の時間でもねえだろうし。
返事をすると、遠慮がちに扉が開いた。思わずスツールを倒し、睨みを飛ばしてしまう。そこにいたのは、俺に事情聴取をした警察の人間。益田とか警部と、刑事で部下の柴木、勝呂。
「だれ?」
那智が不安げな声を出す。
柴木の手に持つ花束で、自分の見舞い客だと分かったようが、こいつにとって三人は初対面。おまけに俺の機嫌が急降下している。警戒心を抱くのは仕方がないことだろう。