「――……ぃ……こ……ぃぃ……」
かすれ切った音と、揺れる髪の振動に重たい瞼を持ち上げる。いつの間にか眠っていたようだ。
瞬きをする間もなく覚醒する。
握っていたはずの弟の手がそこにはなく、俺の頭の上に移動していた。それに驚いて顔を上げると、小さな手がするりとベッドの上に滑り落ちる。
腕を伝った先に、半開きになった目とかち合う。俺の視線に力なく笑いかけたのは、まぎれもなく、たった一人の家族。
声にならない声で、「いい子」と呟く那智を見つめ、見つめ、みつめ。情けなく顔をくしゃくしゃにしてしまう。
「なちっ……なち……よかった、ほんとうに。よかった」
あの時のように、那智を抱きしめことはできなかったけど、小さな手を拾って大粒の涙を流す。
俺を愛してくれる、最愛の家族が目を覚ましたことに、ただただむせび泣いた。