「もう、那智を傷付けさせねえ。他人に――俺の弟を触れさせるもんか」

 一変、下川が能面になる。ぞっとするほど、冷たい顔だった。

「そうだ。傍に置こうしたのが間違いだったんだ。本当に大切なら、傍に置くなんて生ぬるい。あいつは、那智は、那智は俺のだ」

 携帯を引っ掴むと、語り部となっていた下川は早足で扉へ向かう。
 これ以上、話すことなんてないと言わんばかりの態度であった。

「後のことは、俺達を笑ってくれた警察に聴いてみりゃいいんじゃねーの? あんた達も、どうせ今の話に笑っているんだろうがな」

 嫌味と言葉と写真を残し、下川は会議室を出て行った。
 静まり返る一室に、益田の重々しいため息が響く。


「柴木、勝呂、下川那智のストーカー被害に関する相談について片っ端から洗え。この事件は根が深い」


 まったくもって、骨の折れる事件に当たってしまったものだ。