「警察さん方は、この事件をなんだと思ってやがるんだ。まさか、通り魔事件だとでも?」
だったら警察は無能だと下川。
ただただ、ふざけた連中だと悪態をついた。
こういった悪態は慣れているので益田も、柴木も、勝呂も感情的になることは少ない。三人は弟が襲われたせいで、下川の気が立っているのだと判断していた。
しかし。
「それとも、無かったことにするってか。俗にいう隠蔽って、あれか」
せせら笑う彼は残念だったな、と鼻で笑い、取り出した携帯を机上に置いた。
間もなく、そこから流れてくるのは、下川らしき声と少年の声。そして警察の声。内容はストーカー被害の相談と、それを悪質な悪戯だと笑うもの。
(……ばかやろう共が)
益田はこめかみに手を添えた。下川が警察に警戒心を抱くはずだ。
「数日分、録音している。いつもそうだ。警察に真実を言っても、俺達はばかを見る」
もしも、警察がもっと誠実に対応をしてくれていたなら。真剣に聴いてくれていたなら。相談に乗ってくれていたなら。弟は刺されなかったかもしれないのに。
下川の顔が歪む。
「なにが、悪質な悪戯だ。なにが、親に相談しろだ。これが、悪戯かよ!」
パイプ椅子を倒し、持参していた紙袋を机に叩きつける。
衝撃で横たわる紙袋からは、大量の写真が出てきた。
どれも、被害者の少年が写ったものであった。
「俺は相談していたんだよ! 弟が不審者に追い駆け回された。その日から隠し撮りされた写真を送りつけられるようになった。弟を性的な目で見ているカードが送られている。どうしたらいい? って」
なのに、返って来たのは、こちらを嘲笑うものであった。
「また犠牲者が出るだ? ざけるな! 出るわけねぇだろうが! 犯人は最初から那智を狙っていたんだ! 俺の横を通り過ぎて、那智をッ……那智を……狙われているのは分かっていたのにっ」
下川が言葉を詰まらせる。感極まったのだろう。
血が出るほど下唇を噛み、「俺が甘かったんだ」と、後悔を口にする。
もっと自分が考えて動けば良かったのだ。警察を頼ろうとした自分が馬鹿だったのだ。弟を外に出さなければ良かったのだ、起こした行動がすべて間違いだったのだ、と。