最重要参考人である、下川治樹と面会できたのは、それから三日経った後のことだった。
未だに被害者の少年は目を覚まさないらしく、付きっ切りで看病している下川の顔色はまるで死人であった。端正な顔だというのに、隈が目立つ。
そんな中、呼び出してしまったことが申し訳なく思うが、早急に犯人を捕まえなければならない。
これは『無差別通り魔事件』と睨んでいる。
野放しにしておけば、第二の被害が起きるやもしれない。現場の目撃情報はたいへん貴重だった。
彼を連れて来た、部下の勝呂は大層疲弊しているようだった。
此処まで連れて来るのに一悶着あったらしい。
被害者の気持ちを考慮し、病院の会議室を借りて移動時間を皆無にしたのだが、それでも下川は片時も弟の傍を離れないと言って聞かなかったそうだ。
かと言って、こちらが病室に赴き、事情聴取をするという提案には、「弟に近付させるか」と牙を向いたとか。
とにもかくにも、下川は過剰なまで警察に対して警戒心を抱いている様子。それは会議室に入り、こちらを見てきた眼光の鋭さで分かった。何故か、大きめの紙袋を持参していた。
(こりゃあ骨が折れそうな事情聴取になりそうだな)
益田の嫌な予感は、みごとに的中する。
始まった事情聴取に対し、下川は一切口を利こうとしなかった。
何を聴いても、うんともすんとも言わない。黙って腕と足を組み、こちらをじっと睨むばかり。まるで獰猛な獣のようだ。
柴木が口を温めるために世間話を振ってもだめ。勝呂が弟を気遣うような発言をしても無視。益田が率直に聴いても口は開かない。下川は黙ったままであった。
これでは取り調べにならない。
「頼むよ。また犠牲が出るかもしれねぇんだ」
「また?」
ようやく下川が口を開く。じつに、三十分後の話だった。