(どちらにしろ、カモミールが欲しいことを知ることができる人間ってことは確かだな)
さらにこいつは俺に私怨、とは言えないが、まあ、それに近いものを抱いている。
もし、お友達のために復讐をしようとするのならば、那智は利用する価値大だ。疑心暗鬼になり過ぎか?
思案に耽っていると、那智がカモミールを見に行こうと腕を引いた。はいはい、分かった。一緒に見にやってやるから、そう急かすなって。
「福島。もうバイトは上がりそうか……って、うわっ」
外に出ると、今まさに店に入ろうとした優一と、那智がぶつかりそうになる。後ろには早川がくっ付いていた。
おいおい、これまた、なんの偶然だよ。嫌な面子と顔を合わせちまったな。特に優一、お前には会いたくなかったんだけど。
ぶつかりそうになった那智は「ひゃっ」と、悲鳴を上げて、何度も頭を下げると俺の後ろに隠れてしまった。
自分に非があると思っているのか、ぶるぶると身を震わせている。今のはどう見ても事故未遂なのになぁ。それよりも。
「治樹じゃないか。何しているんだよ……子守のバイトでもしてるのか?」
那智を指さす優一の頭を、早川が素早く叩く。
「どう見ても身内だろう。下川が子守のバイトをするキャラか」
身内、という言葉に優一が指を鳴らす。
「治樹の弟くんか」
だったら挨拶をしないと、と言って那智に声を掛けた。
ぎゅっとしがみつく手が強くなるのを感じた俺は、早川が止めるよりも先にばかの頭に拳骨を入れた。手加減なしの拳骨に、優一の口から悲鳴がほとばしる。自業自得だあほう。
「な、なにするんだよ。いってぇな」
「近付くんじゃねえ。弟が怯えているだろうが」
ぶうっと脹れる優一が、「親友なのに」とか、ふざけたことを言いやがる。
それを真に受けた那智が、真偽を確かめるように服を引っ張ってきた。真実なら謝るつもりなんだろう。が、生憎、俺にはお友達がいないんで? もう一発、優一の頭を殴っておく。
「あでで。お前には加減するって優しさがねーのかよ」
「今のは佐藤が悪いだろう。あの子、本当に震えていたぞ」
ため息をつく早川は本当に察しが良い。
何かしら事情があると踏んだ上で、俺に謝ってきた。ついでに「弟の付き添いか」と聞いてくる。雰囲気で那智が植物好きなのだと判断したようだ。
ぶっきらぼうに返事すると、早川が肩を竦めた。
「下川にも、優しい一面があるんだな。見直したよ」
必要最低限のことしか話題を振ってこない早川が、他愛もない世間話を切り出してくるということは、何かしら俺に用件があるということだろう。