「何が悲しくて同じ写真を二枚も、三枚も、送られてこなきゃいけないんですか。こんなものを貰っても、ちっとも嬉しくないんですけど」
これは陰湿な嫌がらせだと那智が唇を尖らせた。
新手のいじめなのかもしれない。訴えれば慰謝料も取れるかも、と云々唸っている。
いじめはさておき、陰湿な嫌がらせってのは一理あるな。那智の言う通り、毎日のように同じ写真を送りつける行為は、嫌がらせの他なんでもない。
「中には新しい写真が混じっているな。これは、台所の窓を開けているお前だな」
律儀に写真を確認しているせいか、どれが新参の写真なのか、ひと目で分かってしまう。
アパートを知られているせいで、窓を開けることにすら気を付けないといけねえなんて。
あ、でも、この那智はちょっと可愛いな。無防備な顔で窓を開けて、まぶしそうに目を細めているところか。うん、綺麗に撮れてやがる。
しかし、この状況は素晴らしく良くないな。写真を見る限り、始終見張られている可能性が高い。
(ただ。それが現実的に可能なのかどうか。相手はニートなのか?)
社会人を仮定にするなら、どこかしらに隠しカメラを設置されている可能性もある。万が一を考えて、この家にカメラや盗聴器がないか探したが、そういったものは無さそうだった。
どうしたらストーカー野郎を撃退できるんだ。
いっそ、こっちも隠しカメラを仕掛けてみっか?
(この一週間、那智は殆ど家を出ていない。だからこそ、焼き回しの写真ばかり送るしか手がないんだろうが……ずっとこの生活を続けるわけにもいかねーし)
仕方ねぇ。あんまり使いたくない手だが警察を利用してみっか。
証拠は嫌ってほど揃っているし。向こうがおとなしくしている内に、プロに任せた方がいいかもしれねぇ。
警察は信用できねえが、それは俺の私情。那智の身の安全が第一だ。行っておいて損ってことはねーだろ。たぶん。
(……問題はストーカーの話を信用するか、どうか)
過去の記憶がよみがえる。
俺を助けてくれると思っていた警察は、事もあろうに俺への暴力を母親の一時的なヒステリックによるものだと言って、厳重注意という形で話を終わらせたっけな。
こっちが正しいことを言ったところで、それがいつも通るとは限らない
(俺はあの頃のようなガキじゃねえ。警察の発言は、しっかりと記録させてもらうか)
心ある警察に当たれば万々歳。録音は杞憂で終わるだろう。
事務的にしか動かない警察なら追々記録を証拠と一緒に提出すればいい。
なんにしろ、警察に行くからには準備が必要だ。
そうと決まれば話は早い。
「那智。昼飯を食ったら出掛けるぞ」
その日の午後。
準備を済ませた俺は証拠の束を大きめの紙袋に詰め、弟とタクシーで警察署へ向かった。
俺の計画に那智は驚いた様子を見せ、やや戸惑い、「兄さま。おれは大丈夫ですよ」と気遣ってくれる。警察嫌いの俺を心配しているんだろう。
気持ちは嬉しいが、ストーカー被害に遭っているのは那智だ。早いところ解決しねえと、俺もおちおち大学にも行けねえ。