【3】
「物申します! ストーカーさん、絶対おれに喧嘩を売ってますよ!」
ストーカー被害に遭って一週間。
あれから、毎日のように写真とメッセージカードが送られてくるようになった。
郵便受けに封筒が入っていることもあれば、紙袋がドアノブにぶら下がっていることもある。
腹立たしいことに、呼び鈴を鳴らして、わざわざお届けに来ましたとアピってくることもあった。
俺達が部屋にいると分かっていながら、普通に紙袋を届けに来るなんざ、どういう神経の持ち主だ。犯人はスリルを味わいたいドMか?
その紙袋の中身は写真やら、カードやら、那智が喜びそうな園芸道具やら……気味悪いったらありゃしねえ。こっちが警戒しているってことを見越して、防犯ブザーまで寄こしやがる。
おいおい、なんの嫌がらせだよ。
それとも挑発だと受け取っていいのか? ブザーに何か仕込んでいる線もありえる。
恐怖以外のなんでもない行為に、那智は怯えることなく、むしろ、いきり立っていた。
こいつは物理的攻撃にはてんで弱いが、精神的攻撃にはすこぶる強い。虐待を経験しているからこそなんだろう。さすが俺の弟だと思う。
「おかしいですよ兄さま。おれのストーカーさん、なーんでいつもメッセージを英文にするんですか!」
んでもって怒るところがずれてやがる。那智、そこじゃねーだろ。そこじゃ。
「嫌味ですか、キザぶっているんですか、それとも英語を勉強しろってことなんですか! 読めないんですけど!」
読めなくていい。大体が性的な目で見ている、クダラナイ英文だから。
「……写真。那智、写真に思うことがあるだろ」
「一枚千円は取りたいって言いましたけど、撤回です。一枚二千円にします」
隠し撮りされた写真の価値って、お前の中じゃそんなものなんだな。兄さまは安心した。
てっきり、どこから撮られているんだろう怖い! とか、もう外を歩けない! とか、そういうテンプレを想定していたんだが……まあ、那智が元気ならそれでいい。
「送られてくる写真。初日に送られてきた写真と一緒ですよね」
ぶうっと脹れている那智は、メッセージが記されたカードをゴミ箱の上で破り始める。
二つから四つ、さらに八つ、と細切れになっていく紙切れは、まるで雪のように箱の中へ舞い落ちた。
「焼き回しをしているんですかね?」
初日に見た写真を送られ続けていることに、那智は迷惑極まりないと鼻息を荒くする。
「兄さまとのツーショットはないですし」
それが送られてきたら、俺は驚くぜ? それこそお前は那智の友達か! って、ツッコんでやりたいところだ。