「兄さまとずっと、こんな生活を続けたい。そう思うおれは、普通じゃないんでしょうか」
だとしたら、おれは普通の幸せなんていらない。
「ごめんね、兄さま。普通の幸せを、幸せだと思えなくて」
大きな手が頭を撫でくれた。
そして、おれを引き寄せて、「いいよ」と言って許してくれる。体がちょっとだけ震えていたから、止めていたお腹ぽんぽんを再開した。
「俺もごめんな。那智。お前を手放せなくて、ごめん」
ぽんぽん。お腹を叩いて、「いいよ」とおれは兄さまの真似をする。少しでも笑ってほしいから。
「兄さまと一緒に居られる、この世界がおれにとって一番の幸せです。普通の幸せよりも、ずっと、ずっと」
叶うなら、この暖かな世界に包まれて死にたい。
どうしようもない願いを口にすると、「俺と同じだ」と言って、兄さまがやっと素で笑ってくれた。幸せそうに頬を崩して、自分と同じ願いだと繰り返す。
「那智が俺の弟で良かった。ほんとうに、良かった」
額をこっつんこしてくる兄さまの前髪が、顔に掛かってくすぐったい。それ以上に、なんだか照れくさくなっちゃった。心までくすぐったいや。
「ちょっとだけ、あれだあれ。気恥ずかしくなってきた。なんの告白大会だ、これ」
今度こそ声を上げて笑ってしまう。
こんなところまで、おれ達の気持ちが以心伝心するなんて思いもしなかった。何気ないやりとりが、ほんとうに幸せでしょうがない。