話がひと段落すると、兄さまはまた駄々捏ねっ子に戻った。

 一緒にテレビを観ようだとか、本を読もうだとか、お風呂に入ろうだとか。なんでも【一緒】を強制した。
 ひとりが嫌いな兄の我儘を叶えたいおれは、素直に言う通りにした。普段の兄さまは、おれにまったく我儘を言わないから。むしろ、いつも叶えようとする側だから。

 布団に敷き、就寝の準備をする。
 おれ達兄弟は昔から一つの布団で寝ていたもんだから、いまも布団は二人で一つだ。ひとりずつ、だと広すぎるんだよなぁ。

 間接照明を点けたままにして布団にもぐる。兄さまはもう目を瞑っていた。寝ちゃったかな?

「那智」

 あ、起きてた。

「どうしました?」

 お腹をぽんぽんと叩いてやると、小さな笑声が聞こえた。
 瞼を持ち上げ、「ごめんな」と謝ってくる。突然、謝られても全然伝わって来ないんだけど。

「俺はお前に、ふたりだけの世界を強いている」

 蚊の鳴くような小さな声。泣きそうな声。
 途方に暮れたような声が静まり返った一室に響き渡った。
 そんなことないよ、おれだって同じ気持ちだよ。それを伝えても、兄さまには届いていないようだ。ろくな兄じゃないと自分を蔑んでしまう。

「狭い世界に閉じ込めている自覚はあるんだ。せっかく、あの家から那智を出してやれたのに。お前はもう自由なのに。俺の我儘で、お前は狭い世界にいる」

 全部分かっているのだと兄さま。
 それでも、自分はこれからも、この世界に留まるよう強いるだろうと吐露した。
 それが、弟の普通になれる幸せの妨げになることも、邪魔になることも、障害物になるとも、分かっているのに。