「不自然なんだよ。那智の制服の写真がねーってのが。色んな場面の那智を大量に送られているのにも関わらず、お前の制服姿の写真が一枚もない」

 言われてみれば。

「那智。お前、最後に学校に行ったのは?」

「……えーっと、二週間前ですかね」

「てことは、つまり二週間以内に撮られた写真だろう」

 ふむふむ。おれは探偵のように推理する兄さまに感心して大きく頷く。

「じつは制服姿のおれだけ抜き取ったって線はありません?」

「ねえな。見たところ、この変態様は色んな那智の姿を写しましたとアピッてきている。自慢したいのか、なんなのかは知らねーが、そういう輩なら制服姿も入れるだろ」

 しかも、写真のおれの私服は、長袖カットソー一枚の姿ばかり。
 仮にこれが夏に撮られているなら、おれも兄さまもTシャツに薄いカーディガンを羽織る。傷だらけの肌を見られたくないために。また、仮にこれが冬に撮られているなら、もう少し分厚い格好をしている。寒がりだしね、おれ達。

「コートもカーディガンも着てない。その上、那智の制服姿も見当たらない。このロゴ入りトートバッグを持っているお前を見てみろよ。このトートバッグは俺が少し前に買ってやったヤツだろ? なら、最近撮られたと考えるのが筋だ。しかも、腹立たしいことに俺達の部屋を知ってやがる」

 まあ、部屋を知らないと置き土産もできないよなぁ。

「分からない点は二つ。那智の欲しがっていたカモミールを、犯人はなんで知っていたのか。どうして、今日に限って追い駆け回したのか」

 兄さまの中で、写真の送り主と追い駆け回した人間は同一人物だと思っているようだ。どっちもストーカー行為みたいなものだし、同じ人物って考えるのが筋だよね。でも。

「カモミールは分かりますけど。追い駆け回した点が、どうして疑問なんです?」

「えらく行動が雑なんだよ。俺がお前をストーカーするなら慎重に行動する」

 それは兄さまの頭が良いから、じゃなくて?

「考えてもみろ。下手に追い駆け回して、もし騒動になったらどうする? 最悪、警察沙汰だぜ? 目撃者だって出てくるかもしれねーのに」

 この犯人は、おれを追い駆け回した同日に写真を送りつけてきている。

 丁寧に写真とカモミールを送りつけているわりに、計画性もなく追い駆け回している。犯人は慎重に行動を起こしたいのか、それとも雑に行動を起こしたいのか、まったく分からないと兄さま。

 すっかり名探偵になっているホームズ兄さまに、おれはワトソンになった気分で意見する。