食卓に牛乳パックとコップ、それから出来上がったラーメンを置いて、兄と夕飯を食べる。
その間も手は繋いだまま。利き手が使えないからフォークで食べる。兄さまも同じくフォークだ。一緒にしないと拗ねちゃうから。
「兄さま。美味しい?」
もぐもぐと麺を咀嚼する兄さまは小さく頷いた。良かった、お気に召してくれたみたい。炒めた野菜もちゃんと食べてくれる。
「那智。牛乳」
「今日はよく飲みますね。もう、無くなりそうですよ。明日買いに行かないと」
「俺、留守番は嫌だ」
「もちろん一緒に行きましょう。ほら、コップ貸してください」
空っぽになったコップに、なみなみと牛乳を注ぐ。真っ白な液体が、容器の中で波を打っていた。
「なあ、那智。さっきのストーカーの話になるんだが」
情緒不安定になっても、幼児のように駄々を捏ねても、兄さまは兄さまだ。所々調子を取り戻して、いつものように話題を振ることがある。
「最近、変わったことは無かったか? なんでもいい。あれば教えてくれ」
「変わったことって言われても……」
今日ほど変わったことは無かったと思うよ。
変な人に追っかけ回されるわ。写真は送られてくるわ。カモミールが欲しいことを知っているわ。不気味な一日だったな。お母さんに叩かれるくらいに、今日の出来事は怖かった。
大体なんで、おれの写真を送ってきたんだろう。たぶん、悪い意味で送ってきたんだろうけど、自分の写真を大量に送られるなんて、なんか気持ち悪いや。
「じゃあ。那智、お前の行動はどうだ?」
おれの? それこそ、代わり映えのない毎日を過ごしていると思うけど。
学校に行く代わりに図書館を利用して、そこでお昼過ぎまで勉強でしょ。夕方近くなると、買い物へ行ったり、兄さまの大学やバイト先へ遊びに行ったり。
「あっ、そういえば……ひとつだけ心当たりが」
「なにかあるのか?」
「一週間前だったかな。近所の文房具屋前で道を聞かれました。兄さまに頼まれたシャー芯を買おうと思って店に入ろうとしたら、男の人が声を掛けてきて」
だけど、人見知りが激しいおれは上手く答えられずに、テンパったまま頭を下げるしかできなかったんだよな。
確か、スーツを着た三十代くらいの男の人だったような。よく見ていないから憶えていないけど。
すると兄さまがフォークを置き、顎に指を絡める。