浮かれた気持ちを抱きながら、アパートに帰って来ると、玄関扉のドアノブに妙な物がぶら下がっていた。
 那智と顔を見合わせ、ドアノブに引っ掛かっている紙袋を手に取る。回覧板にしちゃでけぇし、クリスマスプレゼントにしちゃ時期外れだろ。

 中身を開けてみると、分厚い長形封筒とプランターに植えられた葉っぱ。なんだこれ。

「カモミールですよ。これ」

 それって、今度那智が欲しいって言っていたハーブだよな。嫌な予感がする。

「那智。鍵を開けてくれ」
「え、はい。お財布を出しますんで待ってください。鍵は……あったあった」

 那智が財布から鍵を取り出し、部屋の鍵を開ける。
 俺は急いで部屋に上がって、カッターで封筒を切った。
 なにやら、紙の束が入っているようだ。折り脚テーブルの上でそれをひっくり返すと、無数の写真が滑り落ちる。

(これは……)

 その写真を数枚手に取った俺は、失敗したと顔を顰めてしまう。これは俺一人で見るべきだった。那智の前で開けるんじゃなかった。

「おれの、写真?」

 困惑した顔を作った那智は、写真を手に取り不安そうに俺を見上げてきた。

「これ……おれがスーパーで買い物をしている写真です。こっちは、たぶん、図書館の帰りだし。あれは、玄関前を掃除している写真」

 それは、どれもこれも那智の姿が写った写真だった。すべて隠し撮りされたものだろう。写真に写る那智はカメラ目線じゃない。中には俺が端っこに写っているものもあるけど、中心にいるのは那智ばかり。ガチもんのストーカー行為じゃねえかよ。

 てことは、なんだ? 紙袋に入っていたカモミールは、那智への贈り物ってことか。胸糞悪い。どこの変態だよ。これを贈ってきた奴は。

「兄さま。カードも入っていました、けど……英語の意味がよく分かんないです」
「見せてみろ」

 那智から差し出されたカードは、可愛らしいコスモスの花柄模様だった。メッセージはど真ん中で主張している。


You make me hot.――君は私を興奮させる。