(くそ、なんでこういう時に限ってバスが三十分後なんだ)
バス停の時刻表を見た俺はタクシーをつかまえて、急いで那智のいるコンビニへ向かった。
その間、気が気じゃなかったんだが、コンビニに入って脱力してしまう。
那智は俺の言いつけを守って立ち読みをしていた。
ぎゅっと目を瞑り、ぷるぷると体を震わせている姿が、果たして立ち読みをする振りといえるのかどうかは分からないが、無事でなによりだ。
電話をもらって、およそ二十分後のことだった。
「ごめんなさい。兄さま……手間を掛けさせちゃって」
コンビニを出た那智は浮かない顔のまま、俺の手を強く握って放さない。恐怖心の大きさを、態度で教えてくれる。
「何事もなくて良かったよ。お前の言っていた変な男は、もういなかったみてぇだな」
そこにいたら、所構わず顔をぶん殴ってやっていたんだがな。
那智に目をつけるなんて、命知らずもいいところだな。ああくそ、どこのどいつだよ。那智をストーカーした奴。兄弟揃ってストーキングされるなんざ、まじ笑えねえ。
「明日も図書館で待っているんでしょうか」
すっかり落ち込んでしまった那智の悲しい顔を見たくない俺は、ファミレスへ行こうと話題を替えた。
夕飯の買い物をしそこねたんだ。今から買い物に行くにしても、こんなことが遭った直後に、夕飯なんて作る気にもなれないだろう。
男のことは明日からしばらく様子を見ることにして、今は美味しい物を食べて気を落ち着けるべきだ。
すると、那智は俺の気持ちを察したのか、力なく頬を崩した。
「おれ、今日は兄さまとお家で夕飯を食べたいです。ファミレスは人目があって怖いし、兄さまに甘えられません。家に買い置きのインスタント麺がありますから。今晩の夕飯はそれでいいですか?」
ふたりっきりになれる空間が良い。
那智の言葉に心が震えた。表情に出していたかもしれねぇ。それくらい嬉しかった。弟の中で兄貴が一番なんだって思えた。
そうか、そうかそうか。じゃあ、那智の我儘に応えてやらねーと。
「ああ。俺は構わないよ。那智と一緒なら、俺はどこでもいい」
俺も那智に甘えたい。無性に甘えたくてしょうがかない。