(兄さま達が来るまで、鳥井さんに見つからないようにしないと)
そっと茂みから鳥井さんの姿を探す。
声が出そうになった目と鼻の先に鳥井さんがいる!
まずい、まずい、まずい。おれは身を小さくして携帯を抱きしめた。携帯から兄さまの声が聞こえるけど、答える余裕はない。いま会話したらばれる。絶対にばれる。
その間にも携帯から兄さまの声が……つよい雨音と風音で兄さまの声が掻き消えてくれたらいいんだけど。ああ、鳥井さんの耳に届きませんように。
「くそ。携帯を奪われたのは大失態だった。幸い、あそこは五年前に稼働終了した廃工場。人はいねえだろうが……梟の奴、どんくらいで着くんだよ。一刻も早くガキを捕まえておかねえと。夜になったら探す出すのがムズイぜ」
ぶつくさ聞こえる愚痴が遠ざかっていく。
おれは頃合いを見計らいながら慎重に茂みから出ると、身を隠しながら工場に続く急斜面をゆっくりと下る。
(ここじゃまともに話せない。どこか安全な場所を探さなきゃ)
携帯は通話にしっぱなし。兄さまの声は聞こえない。
きっとおれが話せるタイミングを待ってくれているんだと思う。待っててね、兄さま。いっぱい話したいことがあるんだ。メモした内容だって話したいし、鳥井さん自身のことだって情報を提供したい。
ああ、寒い。すごく寒い。全身びしょ濡れで体が重たい。痛い。手錠が冷え切っているせいで、両手が重りのよう。息があがってシンドイ。
だけど、そんなの我慢だ我慢。
「兄さま、帰るから。ぜったいに帰るから。まっててね」
帰ったら、いっぱい甘えさせてね。頑張ったなって褒めてね。ひとりにしてごめんねって謝らせてね。