それでも泣き止まないおれに思うことがあったのか、鳥井さんは車を近くの自販機前まで移動させると、あたたかい紅茶を買って「飲んどけ」と、おれに押し付ける。
 泣くばかりのおれに、たぶん同情したみたい。

 こんな目に遭わせたのは鳥井さんなのに。

「ったく、だからガキの相手は嫌なんだよ。くそ、なんで手前で攫ったガキの世話をしなきゃなんねーんだ」

 放っておいていいのに、鳥井さんはむしゃくしゃした顔でおれを一瞥してくる。

「とにかく泣き止め。今日はこれで仕舞いだ……はあ、こういうところがへっぽこだって言われるんだろうな」

 つくづく自分は甘い人間だ、この仕事に向いてないと舌を鳴らし、「おとなしくしているなら何もしねえよ」と言葉を置いて運転席に戻ってしまう。上着はおれに貸したまま。取り戻す気配はなかった。
 おれは鼻を啜りながら、熱々になっている紅茶のペットボトルの蓋を開ける。

(……甘い)

 熱々のミルクティーはおれの気持ちを落ち着かせる。
 ううん、最初からおれの気持ちは落ち着いている。
 ちょっと泣き虫毛虫を出しただけで、思うところは少ない。行為を思い出すと吐き気がまたこみ上げてくるけれど、それだけだ。

(兄さまの下に早く帰ろう。いっぱい甘えたいや)

 すぐに泣き虫毛虫になるばかは、鳥井さんから逃げようと見え見えの態度で振る舞っていた。
 そして無様にも目論見は失敗。挙句、抵抗したけど体を触られて、泣きじゃくって、相手の脅しに屈した。鳥井さんに『その程度の弱い人間』だと思わせた――これでいいんだ。これでいい。おれはおれのやり方で勝負をする。正面勝負じゃまず鳥井さんに勝てない。

(相手に勝つには駆け引きが大事。いまは我慢だ。我慢)

 鳥井さんに負けたと思わせることが大事なんだからさ。