「見たところ、お前らも買い物みたいだな」
「まあ、な」

 歯切れ悪く返事すると、俺達の手から逃げた優一が腕や足をさすりながら、こっちをまじまじと観察。変なところで勘の良い男だから、「那智くんのお見舞い品だそれ」と言って紙袋を指さした。
 違うと否定しても優一には通用しない。福島の手元にはプリザーブドフラワーが入った袋が見え隠れしているし、そもそも俺と福島が一緒にいる理由なんて『付き合っている』か『那智のお見舞い』かの二択。

 前者は全身全霊を込めて否定したわけだから、自然と『那智のお見舞い』という答えが導き出されても仕様がない。

 相手が早川ひとりなら、あっさり肯定するところだが、優一となると話は別だ。なぜなら。

「ずるいぞ福島。那智くんの見舞いに俺も行きたい」

 ……ほらきた。
 ほんと、こいつ、どうしてくれようか。
 優一の発言に思わず頭を抱えてしまう。
 こいつは一度言い出したら、ちっともひとの話を聞かない。福島を那智の病室に連れて行くだけでも葛藤があるのに、優一まで連れて行くなんて冗談じゃねえぞ。

「佐藤、お前は下川の弟と一回しか会ったことないんだぞ。殆ど顔を合わせたことがない人間が見舞いに来られても、気を遣っちまうだろう?」

 突拍子もない優一発言は、さすがに常軌を逸していると思ったようで、早川はやんわりと遠慮するように説き伏せる。が、優一にそれが通じれば苦労はない。
 うんうん、うんうん、と頷いた後に、ちゃんと見舞い品は用意すると胸を叩いた。
 それこそ那智が筆談コミュニケーションだと聞いても、車いす生活だと聞いても、見舞いに行くと言って聞かない。極度の人見知りだと言っても、大丈夫の一言で返してくる。

「俺はどんな態度を取られても気にしないぜ。治樹は俺の親友だ。その弟の見舞いに行くのは当然だろ?」
「……トーゼンなわけないだろ。お前が良くても、下川の弟が気にするって」

 早川の説得は見事に失敗。
 優一はさっそく見舞い品を買って、那智の見舞い行こうと笑顔を作る。
 俺が何度ダメだと言っても、福島は良くて自分がダメな理由が分からないと突っ返されるばかり。

 確かに優一の視点に回れば、その言い分も分からないでもない。俺と優一は高校時代からの付き合いで、俺と福島は大学からの付き合い。それも少し前まで険悪な仲だった。いや今も険悪は健在だがな。手を組んだことで鳴りを潜めただけで。

(さてと、どうしたものか)

 俺は後頭部を掻きながら、この状況の打破を考える。
 一番手っ取り早いのは今日の見舞いの取りやめ。福島が行かなくなれば、優一も渋々諦めてくれるはずだが、問題はこの女がそれに応じてくれるかどうかだ。さっきまでご機嫌に買い物をしていたから、おおよそこの提案は足蹴にされる未来が見える。
 かといって、優一を諦めさせるのは骨が折れる。まじでこの男は諦めという言葉を知らない。どんなに冷たくあしらっても、冷たく脅しても、へらへら笑って受け流すだろうし。

 この場を治めるには全員を那智の病室に連れて行く、だろうが…………。

(優一を連れて行けば、必然と早川も引っ付いてくるだろう。福島は言わずもがな。いきなり三人も病室に連れて行ったら、那智の奴、テンパりそうだな。ん?)

 俺はふと電気屋の前に設置されている、宣伝用テレビに意識が奪われた。
 テレビにはニュースが流れている。それは実況中継だった。
 深刻な顔を作っているリポーターが、病院の前で何やら事件らしき内容を述べている。吸い寄せられるように宣伝用テレビの前に立ち、俺はニュースを見つめる。

 だって、テレビに映っているのはそれは、那智が入院している病院だった。