喋る喋る、買い物をする福島は弾丸のようにトークをかましてくる。
置いてけぼりになっている俺なんぞ見向きもせず、数枚のブランケットを手に取って、これが可愛いんじゃないか。でもこっちの方が温かそう。長持ちしそうなのはこれかしら。ああ、ブランケット以外にも欲しい物があれば一緒に買っちゃってもいいかもしれないエンドレスエンドレス。とにかく止まらねえ。
不本意ながら女と買い物を初めてした俺は、非常にくたびれてしまった。
雑貨屋を出る頃には唸り声とため息しか出なくなっていた。毒を吐く元気もねえよ。くそ。
疲労を通り越して疲弊している俺とは対照的に、福島は俺の持つ紙袋を眺めながらご機嫌もご機嫌。見舞い品にブランケットやウサギのぬいぐるみを買えて良かった、と笑顔をこぼしている。自分の物になるわけじゃないのに、笑顔になる理由が俺には分からない。
「ネコ柄のブランケットを選ぶなんて。あんた、結構カワイイ性格しているわね」
「……うるせぇな。那智の好みに合わせただけだよ。あいつは動物も好きなんだ」
「べつにばかにしているわけじゃないわよ。良いセンスだと思っただけ。あんたとお揃いだと知ったら、きっと喜んでくれるわよ」
無邪気に笑う福島を横目に見つつ、俺は鼻を鳴らして、右から左に言葉を受け流した。
笑い掛ける福島の面影が少しだけ、那智の笑顔に重なったのは何故だろう。半分、血が繋がっているせいか? それとも俺の目が腐ったか? どちらにせよ受け入れられない現実だったから、俺は気のせいだと思い込むことにした。気のせいだ。うん、俺は何も感じてねえ。気のせい、気のせい。
「あれ? そこにいるのはもしかして治樹?」
気のせいだ気のせい。
背後からばかの声が聞こえる気がするが、気のせい。俺は何も聞こえてねえ。
仏頂面を作って歩調を早めると、かまびすしい足音を立てて、俺達の前に回ってくるばかが一匹。電気屋の前で通せん坊された。
嬉しそうに目を輝かせて、「やっぱり治樹じゃん!」と、手をひらひら振ってくる男の名前は佐藤優一。ああくそ、なんで大学の敷地外でもお前と会うんだよ。頭痛ぇな。
唸り声を漏らす俺を尻目に、優一の隣に早川が並んできた。
どうやら二人仲良く電気屋に入っていたようだ。おのおの腕にビニール袋をぶら下げている。
「あれ、福島も一緒か? 珍しい組み合わせだな」
口笛を吹いてくる優一は、俺と福島を交互に見やると、面白可笑しそうに指を鳴らした。
「分かった。さてはお前ら、デートだな? 付き合い始めたんだろ! なんだよ。それならそう言っ、イデデデデデ」
俺はとんでもないことを言う大ばか野郎の腕をひねり上げ、福島は思いきり右足を蹴った。
誰か誰となんだって? まさかのまさか、こんなクソ女と付き合っている? 俺が? この女と? 悪夢を見るにしても笑えねえ冗談だ。こめかみに青筋を立てる俺と同じ気持ちなのか、福島は「今度言ったらシバき倒す」と言って、優一の脇に肘を入れていた。
惜しみなく殺意を醸し出す俺と福島の様子を、早川は苦笑いで見守るばかり。止めるだけ無駄だと分かっているんだろう。
とはいえ、絞められている優一を助けたい気持ちもあったのか、早川が当たり障りのない質問を投げる。