「はあ。下川……あんた、あんまりド変態部分を表に出すんじゃないわよ」
「あん?」
「あんたは歪み切って手に負えない。他人に興味がないからこそ、ある程度の出来事にも冷静に対応できる。それこそ実親の行いにもね。だけど、あんたのド変態な部分……つまり弟を思う気持ちはあんたにとって、強みでもあり弱みでもあるわ。誰がどう見ても、あんたより弟を狙った方が手に負えるって思えるもの」
だからブラコン部分は、むやみやたらに表に出さない方が賢明だ。
福島は俺に助言を飛ばすと、「少しだけ羨ましいわ」と言って、言葉を重ねた。
「そこまで兄弟を想えるなんて、あたしには考えられないわ。那智くんといい、下川といい、本当に兄弟仲が良いのね。あたしも一度でいいから、無償の愛で誰かを想ってみたいわ」
傍から見た俺と那智の関係は、どこか歪で、どこか危うくて脆くて、けれどもどの関係よりも透明で純粋で、うつくしいのかもしれない――そう言って、福島は先に書斎を出て行く。その背中をすぐに追わず、俺は人知れず毒を吐いた。
「表に出すな、か……無理に決まっているだろうが。俺を人間に戻したのは那智なんだから」
母親と恋人に虐められて、周囲に見捨てられて、なおも誰も俺を見てくれなくて。俺の心は死んでしまっていて。そんな俺を見てくれたのは、人間に戻したのは、心を戻してくれたのは那智なんだ。
弟を想う心を表に出すなと言われても、それは無理な話。弱みと知られてしまうリスクがあっても、それだけはどうしても無理だ。どうしても。
俺はあいつのためなら、命を投げ捨てても構わねえ。それくれぇに弟を想っている。
「簡単に羨ましいって言ってくれるんじゃねえよ。俺がこの世界をつくり上げるまで、どれだけ努力したと思ってやがる」
どれだけの血と涙と犠牲を払ったっけ、もう覚えてねえな。