一番新しい日付の手紙に目を通すと、A4用紙に大文字赤文字太文字で『※No253の契約違反※』と一文が綴られていた。
 再三再四、日付を確認した俺は携帯でカレンダーを開く。手紙は約二週間前といったところか。

「最後の手紙は、親父が現行犯逮捕される前日――親父は追い詰められたのかもしれねえな」
「督促状を見る限り、あの男は支払期日を守ろうとしていなかった。いえ、守れずに焦っていた。支払うためのお金が手元に無かったから……だとしたら」
「まあ辻褄は合うな」

 ワークチェアから下りると、親父が使っていたらしきデスクに目を向け、おもむろに引き出しを上から順番に開けていく。最初に出てきたのは家電製品の説明書の束。次に出てきたのはこの部屋の賃貸借契約書。会社の退職届の下書きにシャチハタ。喪中見舞いの葉書き。名刺の束。

 俺は名刺の束に目を付けると、それを掴んで一枚一枚名前を確認した。

 株式会社チェリー・チェリー・ボーイの名刺を見つけると、おもむろに裏を返した。走り書きだが芙美子(ふみこ)という名前と電話番号が書き込まれている。
 見覚えのある名前と電話番号に俺は肩を竦めて、その名刺を財布の中に仕舞った。

「この名刺。ババアの名前と俺の実家の電話番号が書き込まれてやがる」
「ババア? 実家の電話番号?」
「俺の母親だ。理由は知らんが、実家の電話番号がこの名刺に書き込まれている。まさかあのクソババア、この件に噛んでいるわけじゃねえだろうな。だったらウケるんだけど」

 俺の母親は通り魔事件と共に行方を晦ませている。
 それは自分の犯した罪が明るみに出たから、身を隠したのだと思っていたが、理由は別にあるのかもしれない。

 あの見積書や督促状を見る限り、親父は期日内に金が払えず、じりじりと追い詰められていたとしたら。さらに契約違反と綴られた手紙を受け取ったのは親父が現行犯逮捕された前日。
 株式会社チェリー・チェリー・ボーイがどういう会社なのか、現状その得体を知る術はないが、もしも俗に言う裏会社に通ずる企業だとしたら。

 逆上した親父は那智の病室に奇襲を掛けた際、言っていたっけ。

『あれほど支援してやったのに結局これだ。お前達さえいなければ、すべてが上手くいっていたのに。あの女の血を引くだけある。今度は何が目的だ。ヒトの弱みに付け込んで何をしようとしている。殺す、殺してやる』

 あの時の俺はぶん殴られて無様に床に倒れていたから、親父の言葉はうろ覚えだが、恨みつらみを喚き散らしていたのは憶えている。
 あの女の血を引くだけある、なんてほざいていた親父だから払えない状況に追い込んだのはババアだとしたら――ああ、くだらねえな。本当にくだらねえ。

「福島、情報としてはこんなものか?」
「今持っている情報は、見せたもので全部よ」
「親父の所持していた六千万が今どこにあるか分かってねえよな?」
「ええ」
「書斎はくまなく探したか?」
「もちろん。金庫も開けた。母も確認していたわ」
「それでも見つかってねえ、と」
「だからあんたと手を組んだわけよ」
「小切手か何かで管理していたのか?」
「口座から綺麗に抜き取られていたらしいから、たぶん現金よ」
「現金ならババアの目が眩みそうだな。あれは金にがめつい」

 さあて、どうしたものか。
 俺は情報になりそうな見積書や督促状、名刺を我が物にすると福島に今から実家へ行くぞ、と提案した。福島は声にならない声で驚きを見せる。俺は首を傾げた。
 なんだよ。てめぇの目的は六千万だろうが。金の行方を知りてえんじゃねえの?