俺はスマホで株式会社チェリー・チェリー・ボーイを検索してみた。

 公式サイトが出てくる。
 リンクに飛んでみると、ずらりとアダルトグッズ一覧が出てきた。
 店舗はなく、web通販で稼いでいるアダルトグッズ会社のようだ。目ぼしいページもないようだが、グッズ紹介の最後に『※貴方の性癖に合わせてご相談に乗ります※』の一文を確認。

 俺は見積書に視線を戻し、それに記載されている金額にもう一度目を通した。

「株式会社チェリー・チェリー・ボーイ。本当にアダルトグッズ販売店なのか、すげぇ気になるな」

 webのみに存在する店舗を持たない会社。
 ネット社会の今日(こんにち)。一見どこにでもありそうな会社だが、妙ちきりんな見積書のせいで怪しさ満点だ。

 すると福島が自分のスマホを取り出し、俺にあるページを見せてくる。それは電子掲示板サイトで、株式会社チェリー・チェリー・ボーイの評判が載っていた。

 大体がアダルトグッズについてだが、途中から話題が替わり、値段は張るが夢を叶えてくれる会社だと盛り上がっている。金さえ積めばどんな性癖にも対応してくれる素晴らしい会社だと称賛する一方、金が払えなければ自分の人生すら失いかねない、恐ろしい会社だと恐れる書き込みもあった。

 金さえ積めば、ね……。

「親父はこの会社に1200万払おうとしたってわけか」
「自分の性癖を叶えるために、ね」
「ネコババした六千万があれば、まあ払えねえってことねえな」

 俺は見積書を閉じると、ひらひらと福島にそれを見せつける。

「つまり、この見積書はアダルトグッズの見積に見立てた親父の夢と性癖が詰まっているってわけだ。たぶん値段のついた商品名は何かの隠語。親父の性癖を満たす、なんらかの指示なんだろう」

 たとえば、憎んでも憎み切れない息子二人の存在を世間から抹消させるためのオプションとかな。

 なにせアダルトグッズを欲する親父と、まったく関係ねえ俺らの情報が見積書に載っているんだ。株式会社チェリー・チェリー・ボーイの書き込みを見た上で、ばか高い金額のアダルトグッズを見ると、ついつい非常識な憶測を立ててしまう。
 たぶん福島もこの見積書を目にして、俺に交渉を迫ってきたんだと思う。
 さすがに誰が見てもこの見積書はただのアダルトグッズの見積書、とは思えねえよな。

「親父が通り魔事件と関わっている。ハッ、信憑性が増したな」
「下川。これ」
「今度はなんだ?」
「株式会社チェリー・チェリー・ボーイから、あの男に宛てた手紙。数通あるわ」

 三つ折りされたA4用紙を開くと、1200万の未支払いについて綴られている。
 期日内に指定の口座へ支払うよう事務的な文章で綴られているそれは、明らかに督促状(とくそくじょう)だと見て取れた。手紙はどれも似た内容で支払期日が載っている。支払期日は統一されている。そしてその期日はとっくに過ぎていた。親父は1200万を株式会社チェリー・チェリー・ボーイに支払っていなかったようだ。

 親父は六千万をネコババしている。支払えない金額じゃないはずなんだが。