【7】


 異母兄弟である福島朱美と手を組んだ俺は、朝っぱらから親父が暮らしていた高層マンションに足を運んでいた。
 そこは俺らが住むアパートからバスで20分、実家からバスで1時間掛かる距離の住宅街にそびえたっていた。まさに一等地で、近辺は新築一軒家や新築マンションばかり並んでいる。金持ちの住宅街と言っても過言じゃない。
 高層マンション18階の一角に、親父は仕事用の部屋を設けていたそうだ。

「待ってたわ。行きましょう」

 メモを頼りに親父の暮らしていた高層マンションに辿り着いた俺は、エントランスで待ち人になっていた福島と無事に合流。
 異母兄弟の案内の下、親父の書斎を訪れることができた。
 家賃ウン十万の良い部屋と契約しているのだから、さぞご立派な書斎だろうと踏んでいたが、部屋に入った俺の第一声は「(きたね)ぇ」
 呆気にとられてしまった。

「なんだこの部屋。やべえな」

 親父の書斎には立派な本棚やアンティークな蓄音機、レコードを納めるための収納棚。木製のデスクにワークチェア。シックな革製のソファーやテーブル、小じゃれたミニワインセラーが設置されている。誰もが憧れるような書斎の造りをしている。が、それを台無しにするくれぇに散らかっていた。
 ソファーには脱ぎっぱなしのスーツやシャツ、靴下が散乱しているし、テーブルの上にはビールの空き缶やカップ麺の空が占領しているし、灰皿は吸殻の山。四隅には燃えるごみ袋が八つも鎮座している。燃えないゴミすら燃えるゴミに押し込まれている。フローリングもよく見ると、砂埃でざらついている。まじで(きたね)ぇ。

「適当に座って」
「……どこに座れっつーんだよ」

 俺は汚部屋と化している書斎に顔を顰めると、ワークチェアに目をつけ、それを引き寄せて座ることにした。親父の抜け殻が散乱しているソファーに座る気分にはなれなかった。抜け殻を退かせばいいんだろうが、触りたくもねえ。ばっちい気持ちが強い。

「福島。この部屋に警察は家宅捜査したのか?」

「ええ。あたしは立ち会わなかったから、詳しいことは分からないわ。この汚部屋を見て、さぞ警察も行天したでしょうね。まったく、警察に捕まるなら、ある程度片してから捕まってほしいわよ。ろくでもない親父ね。お兄ちゃんもそう思わない?」

「ろくでもねえ親父なのは同意するが、お前の兄貴になった覚えはねえ。殴り飛ばすぞ」
「冗談くらい受け流しなさいよ。短気ね」
「うぜぇお前」
「ああ、そうだ。この後、那智くんに会わせてよね」

 福島がデスクの引き出しを漁りながら、念を押すように話題を振ってくる。
 俺は盛大な舌打ちを鳴らしてワークチェアに座ると、肘置きのうえで頬杖をつき、不機嫌にイエスの返事した。

 この女はよほど那智に会いたいのか、親父の書斎に案内する条件として『那智のお見舞い』を出してきた。
 小癪にも応じなければ親父の書斎に案内しないと先手を打ってきたせいで、俺に選択肢は与えられず、ただただ頷くしか選択肢はなかった。

 那智を他人に会わせたくない。弟に特別な感情を抱いている福島なら尚更のこと。