那智はあっさり見つかった。
ぐったりとトイレの壁に背中をあずけ、俺の上着を抱きしめたまま腹部を押さえて、荒呼吸を繰り返していた。
「那智。どうした。気分が悪いのか?」
血相を変えて那智に声を掛けると、弟は俺の存在に気づき、力なく笑ってきた。
「おなか……ちょっと……」
ちょっとだけお腹が痛い、那智は蚊の鳴くような声で返事した。
脂汗を滲ませている様子はどうみても「ちょっと」じゃない。なのに、那智は強がりを見せて、ちょっとだけお腹が痛いだけと言うばかり。だめだぞ那智。お前はちゃんと兄貴に頼らなきゃ。お前は俺がいないとダメなんだから。
口から出そうになった本音を呑み込んで、那智の優しく頭を撫でると、俺の気持ちが伝わったのか、今度はすごくお腹が痛いと伝えてきた。
うん、それでいいよ。強がるお前はあんまり好きじゃねえ。頼られないなんてさみしいだろ。
「吐きそうか?」
「ううん、吐き気は無いです。ただお腹が痛くて」
「いつから?」
「……お昼から」
「ずっと我慢してたのか? なんで連絡しねえんだよ」
「お昼はここまで酷くなかったんです。傷口がちょっと痛んでいるのかなって思って……変なモノでも食べちゃったのかな」
「とにかくベッドで休もう。吐き気がねえならベッドまで運ぶぞ」
「うう。兄さま、おんぶがいいです。おんぶ」
「ったく、わがまま言うんじゃねえよ」
しきりにおんぶがいいと駄々捏ねる弟を、さっさと横抱きにしてベッドまで運ぶ。
弟を抱えたままベッドの上に座ると、まずは夕飯を確認した。今日の献立は白飯、ひき肉の汁物、白身魚、輪切りにされたキウイフルーツ。腹痛を起こしそうなものはなさそうだ。
昼間は何を食べたのか。那智に聞くも返事はない。本当に腹が痛いようだ。仕方なしに抱っこしたまま、しばらく弟の体を叩いて、気を紛らわせてやる。