【6】

 
(すっかり遅くなっちまったな)


 午後六時。
 福島とタノシイお茶会を終えた俺は、ようやっと那智のいる病院に帰って来た。

 まさかあの後、ブラック珈琲四杯目に突入するくらい話し込むとは……今日はもう珈琲を控えよう。さすがに飲み過ぎた。

 ちなみに話し込んだ内容は親父について。
 福島道雄として過ごしてきた親父が去年の夏、離婚して仁田道雄となったわけだが……福島曰く、元々福島家は高層マンションで暮らしていたらしい。
 仕事用と家庭用に二部屋も借りていたそうだ。まじで金持ちだろ。すげえなおい。

 親父の不倫発覚をきっかけに姉と福島はひとり暮らし、母親と妹は別マンションの部屋を借りて出て行ったそうだが、親父は家庭用の部屋はそのままに、仕事用の部屋に引き篭もって生活していたそうな。

 福島はそんな親父の下をたびたび訪れ、表向きは娘として支えていたらしい。親父はそれにいたく感動していたらしく、福島にとびきりの愛情を注いでいたとかなんとか。
 まさか裏で異母兄弟について調べていたなんて、親父が知ったら失神するかもしれねぇな。

 俺は仕事用の部屋に福島と日を合わせて足を運ぶ予定だ。
 アパートの賃貸借契約書はもちろん妙な見積書とやらも、その仕事用の部屋にあるらしい。
 親父が傷害事件を起こしたことで警察が部屋に来たそうだが、先んじて福島が書類等などを隠したっていうから腹が黒いと思う。そこまでして親の金をネコババしたいんだな。姉妹間で愛情に差異があったことが、福島が行動を起こす、何よりの原動力のようだ。どうでもいいけど。

 俺が危惧するべきことは、那智の福島に対する認識の甘さだ。
 花屋にいる間の様子を聞くに、俺が想像していた以上に他人に気を許していたみてぇだから、そこは改めて那智に教え込まないと……福島の話を思い出すだけで嫉妬でどうにかなりそうだ。

(とはいえ、頭ごなしに叱るわけにもいかねえし。どうしたもんかな)

 那智のいる病室を開ける。
 そこにはベッドの上で夕飯を取っている那智が、那智が、那智が……いねえ。
 今日は午前中で心理療法(セラピー)が終わっているから、夕飯は病室で取っているはずなのに。夕飯は残っているものの、食べた形跡はある。トイレか? 風呂じゃねえだろうし。

 俺はコンビニで買って来たカップ麺をソファーに放り投げると、早足でトイレに向かう。