「ちっともあんた達の家庭を羨ましいと思わないのに、あんた達の兄弟仲だけは羨ましいわ。健気な弟があたしも欲しい」

「そろそろ黙らねえと、その口に親父の手帳を突っ込むぞ」
「下川。あたしはそろそろ返事がほしいんだけど」

 こいつはちっとも考える猶予を与えてくれねえな。せっかちめ。
 俺はひとつ鼻を鳴らすと、窓の向こうに目を向けた。行き交う通行人を見つめ、見つめて、両口角をつり上げる。

「いいぜ、ばかな振りをしてお前の口車に乗せられてやる。せいぜい、親の金をネコババするために俺を利用するんだな。その代わり、お前も利用される覚悟でいろよ」

「交渉成立ね」

「ただし、ひとつだけ条件を付ける。那智に異母兄弟の件は伏せろ。あいつは優しすぎる面がある。お前が異母兄弟と知れば、俺とお前の顔色を窺って要らん気遣いを見せる。気揉みさせたくねえ」

 口車に乗るということは、遅かれ早かれ福島と那智は顔を会わせることになる。

 二人を会わせるのは俺的に危険な賭けだが、それ以上に福島の持つ情報は魅力的だ。ここは俺が引くべきだろう。ぜってぇ二人っきりで会わせる気はねえけどな。ぜってぇ二人っきりにはさせねえ。那智にも教えこまねえとな。

 俺の条件に福島は二つ返事で承諾した。向こうも那智に正体を明かす予定はない、とのこと。

「半分血の繋がった姉です、なんて言ってもあの子を困らせるだけだもの。それは本意じゃない。あんたを困らせることは全然平気なんだけど」

「どこまでもクソ女だな。お前」
「なによ性悪ブラコン男」
「いっぺん地獄に落ちろ」
「嫌よ、あんただけ落ちなさい」

 やっぱり手を組むのやめるか? やめた方が良いか? 俺は口悪く罵ってくる異母兄弟を睨み、三杯目のブラック珈琲を飲み干した。