盛大に舌打ちを鳴らし、俺は交渉に応じるかどうかを思慮深く考える。

 大前提として福島の話を鵜呑みにするのは、あまりに危険だ。
 こいつが異母兄弟であることは、アパートの賃貸借契約書で証明済み。親父の書斎から持ち出せるのは家族しかできねえ芸当だろうし。

 那智を一方的に弟として見ているかどうかは、正直判断しかねる。
 他人(ひと)の心なんざ誰も分からねえ。異母兄弟に憎しみを抱いたのなら、それが簡単に消えるとも思えねえしな。利用する気が失せた、という言葉ですら本音かどうか分からねえところだ。もちろん六千万の半分をくれてやるなんざ、誰も信じねえっつーの。

 とはいえ手帳の記載内容に三百万と記された写真、まだ見ぬ意味深長な見積書、ネコババされた六千万、俺にとって気になるワードが山盛り沢山てんこ盛りだ、が……。

「六千万をネコババした後はどうするんだ。お前」

 当然、親の金をネコババするのだから、両親とは絶縁する覚悟なんだろうが。
 俺の素朴な疑問に、福島は「さあ」と肩を竦めた。先のことは考えていないらしい。ただ金さえあれば、しばらくは苦労しないだろうから、ゆくゆく考えるとのこと。
 とにもかくにも両親に最高の復讐を贈ってやりたい、と言って店内の客を眺め始める。

「あたしはあんたと違って、きっと恵まれていたわ。暴力だって振られたこともないし、欲しい物は頼めば買ってもらえた。やたら習い事を多く習わされたけれど、愛情とやらを注がれていたんだと思う。ただ出来の良い姉や妹よりかは遥かに注がれる愛情は少なかった」

 そんな己を可哀想だとは思わないが、不公平であり不平等だと常々感じていた。

「おかしな話でしょ? 愛情は注がれても、子どもの出来で、その愛情に大小があるんだから。姉や妹の方が多くて、あたしは少ない。変な話。おなじ子どもなのに」

 福島は家庭が崩壊していく最中、両親の理想を垣間見たと言う。
 両親の理想は最高の家族を演じること。出来の良い夫がいて、出来の良い妻がいて、出来の良い娘が三人いて。そうして周りが羨む家族を作り上げようとした。クダラナイ見栄が両親の理想に宿っていた。

 うんざりだ。自分は両親の人形ではない。福島は苦々しく吐露すると、頬杖をついて俺を見つめた。