「お前は家庭崩壊の原因となった異母兄弟に、相当強い恨みを抱いているはずだ。なのに、俺と手を組みたいなんざ正気の沙汰とは思えねえ。相応の理由があるはずだろうが」

「やっぱり、あんたは一筋縄じゃいかないわね」
「俺は那智とは違って、他人に甘くねえからな」

 福島は空になったティーカップを見つめると、店員に声を掛けて、おかわりを始めた。
 新しい紅茶が運ばれるまで、一向に口を開く様子はなかったが、湯気立ったティーカップに角砂糖を落としたところでようやっと「お金よ」と返事してくる。

「両親が離婚する際、父は夫婦で蓄えていた金をネコババしたの。離婚後にそれが発覚して、母は発狂していたわ。父の狙いはたぶんそれだったと思う。離婚したことを後悔させるために、ね」

 ネコババした金額はおおよそ『60,000,000』だそうな。
 さすが大企業の重役に就いていた男の家庭だな。六千万なんざ一般人の俺から見たらファンタジーな金額だぞ。

 福島は独自で六千万の行方を追っているという。
 それこそ、どこぞの知らない男と家庭を築きたいと夢見る母よりも先に手にして、さっさとネコババしたい。それが本当の目的だと、福島は妖艶に微笑んだ。

「あの男の書斎から出てきた見積書。内容はともかく金額は、簡単に銀行から引き出せる金額じゃない。たぶん蓄えていた六千万から出そうとしていたと思うの。あの写真に記されていた三百万といい……ね」

「ネコババした金と親父、そして通り魔が密接に関わっている。お前はそう言いたいんだな?」
「ええ。そしてお金の対価になるのが『下川那智』だとしたら?」

 俺は先日の騒動を思い出す。
 益田と柴木と俺の三人でアパートに行った日、俺は知らない連中に襲われた。そいつらは借金持ちで、俺との関係性は皆無に近かった。
 なのに連中は俺を襲ってきた。未だに黙秘をしているようだが……。

 『下川治樹』が金の対価になる対象だとしたら、まあ襲われた理由にも頷ける。

「あたしは両親が蓄えた六千万が欲しい。異母兄弟に八つ当たりができなくなった以上、あたしの怒りは両親にぶつけるしかない。じつの娘から貯蓄をネコババされるなんて、家族ごっこを演じていた両親に対して最高の復讐になるでしょう?」

「メンドクセェな。要はお前の復讐を手伝えってか?」
「手を組んでくれるなら六千万の内、半分をあんたにくれてやるわ」 
「胡散くせえことばっか言いやがって。信じると思うか?」
「信じる信じないじゃないわ。あんたが手を組むかどうかよ。那智くんがまた刺されてもいいわけ?」
「クソ女め」