福島曰く、俺の連絡先を知っていたのは、親父の携帯経由からだそうな。
確かに俺と親父は金まわりのことで連絡を取り合うため、お互いの携帯に連絡先を登録している。
娘の福島が、親父の携帯から俺の連絡先を知ったと言われても、べつに驚きはない。親父の娘からアパートの賃貸借契約書や部屋の鍵を手渡された時点で、親父の管理能力の甘さが露呈しているしな。
「那智くんを特別視しているのは、あたしが一方的にあの子を弟だと思っているから。半分、血が繋がっているんだもの。権利はあるはずでしょ? ……あんた、びっくりするほど不機嫌になるわね」
「ここが喫茶店じゃなきゃ、俺は迷わずお前を殴り飛ばしている自信がある」
「あんたが理由を聞いてきたんでしょ。それだけで殴られちゃ堪ったもんじゃないわよ」
「うるせぇばーか。死ね」
「はあ。下川、あんたって意外とガキね。小学生と同レベルなんだけど……」
苛々する俺を余所に、福島はべらべらと那智を特別視する理由を語る。
那智と出逢ったのは去年の六月初め。
すでに自分に異母兄弟がいることを知っていた福島は、那智が『Flower Life』に通い始めたことを知り、自分の異母兄弟とはどういう奴らなのか知るために『Flower Life』でバイトを始めた。
その時の感情は好意的ではなく、寧ろ悪意的な感情があったそうな。
なにせ異母兄弟の存在がきっかけで両親の仲も、親子仲も、家庭も崩壊。そして家族のどろどろとした秘密を知ってしまったのだから。
「あんた達の存在を知ったのは高3、受験シーズンだったかしら」
父親が自分達とは別に家庭を作っていた。
それをじつは母親は知っていて、水面下でべつの男と不倫をしていた。離婚を目論んでいた。夫婦や家族仲が良好に見えたのは偽りだった等など、昼ドラのような展開が福島を襲った。
そのせいでずいぶんと荒れた受験シーズンだった、と福島は語る。
煮え切れない感情は抱いた福島は、とうとう名も顔も知らない異母兄弟にぶつけたい衝動に駆られた。そう思ってしまうくらい家庭内は最悪な状況だったらしい。
つまるところ、異母兄弟の家庭を壊してやろう、と思ったそうな。
「最初に下川の存在を知ったわ。同年代の子どもがいると知ったあたしは、あの男の書斎に入り浸ってあんたの受験先を調べた。あんたと同じ大学に行くことで、何かしらチャンスが巡ってくると思ったのよ。だけど、あんた自身のことを調べると、かなり評判の悪い不良とつるんでいたことを知って、あたしは不用意に近づかない方が良いと判断したわ。下手すると病院送りされそうだったし」
「だから那智に近づいた、と?」
「あの子なら何か遭ったとしても、女のあたしでも勝てると思ったの。見るからに那智くんはやせぎすで弱そうな中学生だったし……行動を起こすなら那智くんを利用しようと思って近づいたわけだけど」