全面否定された。なんだこの女。
訝しげに相手を見据えると、高村は絶対に違うと繰り返し、この連絡先は本物だと言い切った。
なぜなら、これは親公認の連絡先。自分は下川治樹の親から教えてもらったのだと、つよく反論されたことで俺は眩暈を覚えた。
は?
はあ?
俺の親?
「……おい、不本意だが、俺の親についてはニュースで取り上げられていると思うんだが」
まともな親じゃないことはニュースで取り上げられているはず。はずだよな。
こめかみをさする俺の傍で、福島も見かねたように「下川の弟くんは有名でしょう」と、やんわり諭した。すると高村は「それはお母さんの方でしょう」と言って、顔を軽く紅潮させた。
「私が教えてもらったのは下川くんのお父さん。すごく仲が良いって教えてもらったし、下川くんだって教えてくれたじゃない」
やべえ。真面目に眩暈が酷くなってきた。
すごく仲が良いなら、俺の頭をかち割る真似なんざしねえんだが。
「親父っつーのは」
「下川道雄さんです」
ああ、母さんの苗字で名乗っていたのか。人違いでもなさそうだな。
「色々言いたいことはあるが……まず親父とはどうやって知り合ったんだ?」
「朱美ちゃんの勤めているお花屋さんで」
「『Flower Life』で?」
うん、高村は一つ頷いた。
曰く、友人が勤めている花屋に遊びに来ていた高村は、プリザーブドフラワーを友人に選んでもらいながら恋バナに話を咲かせていた。店内には自分以外にリーマンがひとり。恋バナを聞き流している様子だったので、気兼ねなく会話を弾ませることができた。
プリザーブドフラワーを買い終える頃、店を出た高村は店内にいたはずのリーマンが具合を悪そうに、しゃがんでいるところを見つけて声を掛けた。
今にも吐いてしまいそうな様子だったらしい。
急いで店員に声を掛けて、店で休ませてもらうよう勧め、その日は終わった。