「だからニュースはあんまり観てないよ。お前の口から近状を聞きたかったし、それに……俺は好きじゃないんだ。何も知らない他人が、必要以上に他人のことを語って心配するの。心配するだけして、結局お前らは何もしないじゃんって思っちまう」

 あんまり他人の感情に思うことがねえ俺だが、この時だけは妙に思うことがあった。
 優一は毎日のようにばかばっかり言っている男だ。ほんとうにうぜぇくらいに引っ付いてばかりで、引き離すのに苦労する。ついでに他人に干渉しがち。すぐ俺に何したのか、どこに行くのかと声を掛けてくる。迷惑な奴だ。

 ただその一方で、たぶん他人のことで苦労したことがあるんだろう。
 じゃねえと、他人の心配に対してそこまで辛らつに言えねえ。たぶん俺が知っている中で、それが言えるのって俺以外だと那智くれぇじゃねえかな。似た経験をしているからこそ思う。

「治樹、どんくらい休学するんだ?」

 これ以上、インタビューを思い出したくないのか、唐突に話題を替えてきた。
 下手くそかよ。

「とりあえず最短でも一年。どうにもこうにも、生活が落ち着かねえと大学には通えねえ」
「引っ越すの?」
「ああ」
「そっか。じゃあ、引っ越しの手伝いが必要なら言ってくれよ」
「なんで?」
「ばかお前、引っ越し業者に頼むと金掛かるぞ。お前と弟くんだけで引っ越しするとなると大変だろ。治樹、退院したばかりの弟くんに荷物を運ばせるのか?」

 優一のくせに、的を射た意見を言いやがる。
 確かに引っ越し業者に頼むと金は掛かるよな。貯金を切り崩して生活予定だから、引っ越しで金が飛んでいくのは痛手。バイトは最低でも半年は休む予定だし、俺ひとりで引っ越しするとなると三日は掛かりそうだし、退院したばかりの那智に荷物を運ばせるわけにもいかねえし。

 眉間に皺を寄せていると、「レンタカーを借りてやるよ」と言って、優一は缶を傾けながらひと笑い。

「治樹は免許を持ってねえんだろ? 引っ越しが決まったら、レンタカーで荷物を運んでやるよ」
「気持ち悪いほど好都合な条件だな。見返りはなんだ?」
「そりゃもちろん治樹、お前かな」

 片眉をつり上げて無言で拳を構える俺に、笑いを噛み締めながら優一は冗談だと片目を瞑った。

「大学のレポートを手伝ってほしい。まじでレポート苦手なんだよ俺。お前がいないと単位落としちまう」

 休学してもレポートは手伝ってくれ、そう言って片手を出してきた。

 俺は呆れ交じりにため息をつき、「考えておく」と素っ気なく返事した。
 人命救助の報酬は缶珈琲をご所望したくせに、引っ越しの報酬はレポートの手伝いなんて、ほんとにお前は高校から変わってねえな。ばかというか、もっと賢い交渉の仕方があるっつーか、なんっつーか。

 まあ、下手に無償の優しさを押し付けられるよりマシか。他人がタダで優しさを押しつけてきた日には、俺にとって不利益になる裏がありそうだと身構えちまう。

 無償の優しさをくれるのは、弟だけでじゅうぶんだ。