「そっか。那智くん、順調に回復しているんだな。後遺症もなくて済んだなら良かった」
第一校舎内にあるベンチに腰掛けた俺は、安い缶珈琲を開けている優一と弾まない会話を広げていた。
NPO法人に行きたいからおしゃべりは浩二が来るまで、と助けてもらった側の俺の方が条件をつけているのにも関わらず、優一は快く承諾して俺の近状を聞いてくる。
他人の近状を聞いても楽しくねえだろうに、優一は親身になって那智の回復を喜んでいた。ホッと安堵している。変な奴。お前と那智は他人だろうに。
「治樹に何度も連絡を入れようと思ったんだけどさ。大変だろうから、メッセージを入れるのは控えたんだ。お前のことだから、読んでも返事してくれないだろうけど」
「ニュースにはなっていたんじゃね? 結構お茶の間を騒がせていたし」
「あんなのうそばっかだ。他人の不幸をネタにして、面白がるばっかりなんだから」
だからあんまりニュースは観ていない、と優一は不快そうに吐息をついた。
意外な一面を見た気分だった。優一なら面白半分でニュースを観ていそうなんだが。いつも俺に引っ付いて回っては、ばかをしたり、からかったり、騒いだりしてくる奴だし。
「取材ってうざいんだぜ? 俺のところにまで来たんだから。治樹や弟くんについて話してほしいって」
「お前のところにきたのか?」
「来たきた。高校の時、よくつるんでいたのが聞き込みでばれたんじゃねーの? 誰だよ、俺と治樹のことを話した奴。そりゃ超仲が良かったけど?」
「心底うぜぇなお前」
「なんだよ。高校じゃいつも俺達、一緒だったろ?」
おかげで毎日のように取材の申し込みがきて、堪らなかった、と優一。
取材に対しては何も言わなかったし、知らないの一点張りで通したそうな。
「それなのに高校の同級生の輪島ったら、お前と弟くんのことを話したんだぜ?」
「……あー誰だ? それ」
「お前はすぐ人のことを忘れるよな。高三の時、俺達と同じクラスじゃん。テニス部のキャプテンしていたんだけど」
「……思い出せねえ」
「治樹らしいよ。とにかく、あいつがお前と弟くんのことを話して、複雑な家庭環境だったみたいです、とか言ってたのをテレビで観たんだ。たまたまテレビを点けたら、インタビューで輪島の声が流れていて驚いたよ。んでもって、うそつけって声出しちまった」
一番関わりのある自分ですら、弟の存在を知らなかったのだから、お前が知るわけないだろ、と優一は思ったらしい。
そりゃそうだ。
高校時代で弟の存在を知っていたのは、当時つるんでいた不良達くれぇなんだから。
優一は腹が立つと繰り返し、ニュースもインタビューもうそばかりだと鼻を鳴らす。