「唇を重ねるだけなら、抱擁や手を繋いだ方が良くねえか?」

 俺の疑問に那智も唸り、キスについて考える。

「スキンシップとして好きかと聞かれたら、ギュっとしたり、手を繋いだ方が好きです。兄さまのぬくもりが感じられますから。キスは……ほら、しょぼくれた兄さまを見てかわいいと思った時にするものぉいひゃひゃひゃ」

「うっし。減らず口を叩くのは、この口だな? ん?」

 むにゃむにゃと那智の頬を引っ張り、俺は妙に落胆した気持ちを抱く。

 他人と同じようにスキンシップをしたら、少しは欲が満たされると思ったのに、ちっともキスは良いと思わねえ。
 ドラマや映画なんかは馬鹿みてぇにキスをして愛情表現をしているが、弟を丸ごと独占したいと願う俺には合わないのかもしれない。

 俺の気持ちを察したのか、那智が自分なりに考えて、人差し指を立てた。

「そういえば、お母さんが恋人としていたキスって、ドラマやアニメで観るようなキスじゃなかったですよね。すっごくうるさいキスだったような。やり方が違うのかも?」

「あー確かに?」

 那智の言葉に頷いてしまう。
 あれはなんだったか。小さかった那智と、小4の俺の前で母さんと恋人かいきなりお盛んになって、居間で裸になるわ。両方とも喘ぎ声がうるせぇわ。俺と那智は気まずい気持ちで見守る羽目になるわ。

 とにもかくにも吐き気のする思い出の一片に、二人がキスをしていた光景があったな。
 俺達とは違うキスだった気がする。
 舌を絡ませていたような気がする。
 思い出したくねえけど。もう一回言う、すっげぇ思い出したくねえけど。

(あー益田にも言われたっけ。俺は物を知らなさ過ぎるって)

 現実問題、知ったかぶりをしているところが多い。
 べつに詳しく知らなくても、ニュアンスで知っていればいいと思っていたんだ。それが今になって仇になっている。俺の欠点だな。改めねえと。

 頭部を掻きながらひとつ吐息をつくと、華奢な腕が背中に回ってきた。そしてそれは俺の体を引き寄せると、俺の肩口に顔を埋めた。