苛立つ間もなく味噌ラーメンと炒飯が運ばれてくる。
 じつに美味そうな匂いがしてくる。自覚はしていなかったが腹も減っているようで、俺の腹は空腹を訴え始めた。が、心は空腹より那智のことが気掛かりで仕方がなかった。
 あいつ、ちゃんと昼食は食べたかな。病院食はあんまり好きじゃねえみてぇだし。まあ、好き嫌いがあってもあいつは残さず病院食を平らげるだろう。食べないと生きていけない地獄を経験しているしな。

 とはいえ、俺だけラーメンを食うのは悪い気がしてくる。那智は病院食なのに。

「兄ちゃん。たまには一人で外食してみるのもいい。自分へのご褒美ってやつだ。坊主抜きに美味いもんを食べても罰は当たらねえ」

 一向に箸を取らない俺の心を見透かしたように、益田が話題を振ってくる。
 はあ? ご褒美? 一人で外食なんてなにが楽しいんだ。
 不機嫌になる俺に笑い、「坊主のためにもなる」と言って、言葉を重ねた。

「入った店が美味けりゃ、坊主を連れてくりゃいい。口に合わなきゃ、別の店を探せばいい。どうせ外食するなら坊主を喜ばせたいだろ? 下見のために一人で外食もありだと、おいちゃんは思うねい。とにかく食ってみろ、美味いぞ」

 言いくるめられている気がしてならねえんだが。

 舌打ちを鳴らしながら、割り箸を取ると、俺は言われた通りに味噌ラーメンを啜る。箸が止まらなくなった。正直に言おう、腹立つくれぇ美味かった。インスタント麺と全然ちげぇ。炒飯も味が染みわたって美味い。すげぇ美味い。

「……ラーメン屋のラーメンって美味いんだな」
「くくっ。そりゃそうだ。ラーメンを売りにしている店なんだからな」

 ばっちり独り言を拾われ、益田から笑われてしまう。
 ああもう、なんだよ。そう思っちゃ悪いかよ。
 俺は生まれて一度もラーメン屋なんて入ったことなかったんだよ。外食はファミレスばっかだったし、ラーメン屋は行きづらい印象が強かったし、インスタント麺と大差ねえと思っていたんだ……知らなかったな、ラーメンがこんなに美味いなんて。那智が退院したら連れて来よう。

 炒飯を噛み締めていると、「たまには大人の言うことも聞いてみるもんだろ?」と益田が片目を瞑った。

「俺から見たお前さんは物を知らなさ過ぎる。まだまだガキなんだから、大人を利用して情報を得るべきだぜ。坊主はお前さんを手本にしていることが多いんだから、兄ちゃんが何でも知っておかなきゃな」

「るっせぇな。説教かよ」
「そうそう説教だ。親父のお小言は腹が立つだろ?」
「ああ。すげぇ腹立つ」
「素直で結構。食い下がってくるお前さんは、ガキだって証拠だ」
「……まじでお前のことが苦手だ」

 心底嫌味ったらしく反論するも、益田は笑いながら右から左へ聞き流すだけ。
 子ども扱いしていることは一目瞭然だった。それはラーメンを食べ終わり、店を出て車に乗り込んだ先でも続く。