(母さんを甚振った時に似た興奮が、興奮がこみ上げてきた。やべぇ楽しい)
こう見えても俺は一時期、悪名高い不良グループとつるんでいたことがある。
親父の時は不意打ちを食らったせいで、無様に倒れてしまったが、本来は腕っぷしに自信ある方だ。それこそ身内から恐れられるくれぇに、他人を傷つけることに対して躊躇がねえ。
俺は口角を持ち上げると、ナイフの刃先を掴みあげて輩に微笑んだ。あっという間に左手は血まみれになったが構いやしなかった。
鳩尾に膝蹴りを入れると、ナイフを取り上げて崩れる輩を見下ろす。
「どうして俺を狙ってるんだ? ん? 那智をストーキングしたのはお前か?」
輩は笑って見下ろす俺に恐怖を感じたようだが、そっちから振ってきた喧嘩だ。何をされても文句言うなよ。
ナイフを相手の太もも目掛けて、振り下ろそうかな、どうしようかな、と悩んでいると、益田が声音を張ってきた。
「兄ちゃん! 坊主の心理療法に間に合わねえぞ! 着替えどうするんだよ!」
その言葉に俺はハッと我に返り、ナイフの代わりに輩の腹部を蹴り飛ばして頭部を掻いた。
あぶねえあぶねえ。事をデカくするところだった。そうそう午後から心理療法があるから、那智を着替えさせねえと。ひとりでも着替えさせられると思うが、やっぱり俺がいた方が……って、待てよ。
「おい益田。襲われた時点で、心理療法に間に合わねえ気がするんだが。簡単に帰してくれるのか? くれねえよな?」
「はああ。ったくもう、おいちゃんは泣きてえよ。頼むから、どいつもこいつも大人しくしてくれ」
盛大に嘆かれた。
いや、これは俺のせいじゃねえだろ。ぜってぇに。
(やっぱお祓いするか……なんで事件ばっか遭うんだ)
とにもかくにも、那智がいなくて良かったぜ。
あいつがこの場にいたら真っ先に標的されかねないからな。ああでも、心理療法に間に合わないのはまじでどうしよう。すぐに戻るっつったのに、那智の奴、さみしがってねえかな。
ここはあれかお詫びにプリンでも買ってやるか。柔らかいものならあいつも食べられるはずだし。いやケーキにするべきか? シュークリームも捨てがたい。
しごく悩む俺の足元では、腹部を蹴られて悶えている輩がいた。