疑問を浮かべる俺を余所に、柴木は三台のオートバイに目を向けていた。

 それらが並走しては車の真後ろに下がり、並走してはまた車の真後ろに下がる奇行運転を繰り返している。蛇行運転っつーの? こういうの。
 とにもかくにも、三台のオートバイは変な動きをしている。

「報道陣か?」

「いえ、報道陣の尾行は撒けていますが、あれは……全く別物かと」

 柴木は大通りの道路から細い脇道に目をつけ、つよくアクセルを踏んだ。
 ひと気のない脇道を確認して停車した、その直後、追って来たオートバイが車の前方にまわり、フロントガラス目掛けて石を投げつけた。オートバイの速度と拳を上回る大きさの石を投げつけられたことで、フロントガラスにヒビが入る。

 覆面パトカーとはいえ、フロントガラスに特殊加工がされている、わけでもなさそうだ。
 追撃のようにカラーボールが投げられたことで、フロントガラスは塗料まみれ。前が何も見えねえ。

「いたずら、にしては悪質だな」

 益田の舌打ちは打撃音に掻き消える。
 原因は後部席の車窓。見事にヒビが入っている車窓を、何度も叩く音が聞こえる。助手席や運転手の車窓を狙わずに、後部席の車窓をぶっ叩いている、ということは狙いは俺か? ――だったら好都合、すげぇ好都合。

「ったく。誰だよ仕事を増やすばかは。動くなよ兄ちゃっ、おい!」

 驚愕する益田を無視して、俺はシートベルトと後部席のロックを外し、両足でドアを思いきり蹴飛ばした。
 勢いづいてドアが開いたせいで、車窓を割ろうとしていた輩が尻餅をつく。が、すぐに持っていた鉄バットをフルスイングしてきた。紙一重に避けた俺は相手の手首ごと踏みつけると、ヘルメットごと顎を蹴り上げる。鉄バッドを手放したところで、益田がそれをねじ伏せた。

(まずはひとり)

 鉄バッドを拾うと、向こうに見えたオートバイ野郎の頭部目掛けて、素早くそれを投げつける。
 突然の奇襲に相手は悲鳴を上げながら身を屈めて避けた、その隙を突いて柴木がオートバイから輩を引きずり下ろす。

(ふたりめ)

 最後のひとりは、反対側の後部席のドアに身を潜めていたようで、勇猛果敢にナイフを振り回してきた。
 通り魔事件を経験している人間だからこそ、ナイフに怖じると思ったんだろうが、遺憾なことに恐怖は無かった。こみ上げてくるのはどこまでも冷静に物事を見つめる自分のみ。

 いやむしろ、楽しくなってきた。

 だって! どうにも弱そうな輩が! 突っ込んでくるんだぜ! 笑える! これはきっと弱い。それこそ那智よりもきっと、ずっと、きっと! ああ、甚振り甲斐がある!
 そして手前から喧嘩を振っておいて、いざ自分が甚振られる側になると怖じる顔を見せるんだろ? 母さんと同じだ!