柴木から長財布を差し出され、俺は呆れ半分で中身を確認する。
当たり前だが、柴木に言われた通りのものしか入っていない。
そもそも那智は中学生だぜ?
大金を持っているわけでもないし、キャッシュカードは俺が持っているし、クレジットカードなんてまず作っていない。ポイントカードなんてその場で作ったものが多いだろうから、どの店のポイントカードなんて那智本人も覚えていないだろう。特に異変なんざ……。
ふと脳裏によみがえる。
それはストーカー野郎からカモミールが贈られた日のこと。
『カモミールですよ。これ』
あの日、ドアノブにカモミールの入った紙袋がぶら下がっていた。
俺はそれを見て、嫌な予感を抱いたから、那智に言ったんだ。
『那智。鍵を開けてくれ』
『え、はい。お財布を出しますんで待ってください。鍵は……あったあった』
――那智の財布に入っていた鍵はどこに行った?
全身から嫌な汗が噴き出た。
柴木から財布を受け取り、改めて財布の中身を確認する。
千円札に小銭、ポイントカード。札の間にはレシートが1枚挟まっている。この部屋の鍵がない。
那智はああみえてマメだ。常に所持品は確認する。鍵を落としたとは思えない。仮に鍵を落としても、まず俺に相談するはずだ。
(なんでピンポイントに鍵が無くなってやがる。この財布に鍵が入っているなんざ、那智以外に知っているのは俺か、もしくは……)
どこかで見ていたであろう、ストーカー野郎、か。
ご丁寧に何枚も写真を送りつける奴だ。
那智の日常を監視していてもおかしくない。
それこそ、カモミールが入った紙袋を、この部屋ぶら下げたあの日だってどこで見ていた可能性もある。