【2】
(やっぱり無え。制服が盗まれている)
久しぶりにアパートへ帰って来た俺は、寝室の隅に置いているハンガーラックの前で弟の制服を確認していた。
いつもハンガーに掛かっているはずの学ランがどこにも見当たらない。中に着るワイシャツやスラックスはそのまま残されているものの、上着だけが綺麗に盗られている。
他に盗まれているものがないか、寝室内を歩き回る。
那智の通学鞄や私服、寝間着の無事を確認した後、俺は手前の私服や寝間着の無事を確認する。
念のために居間や台所なんかにも足を伸ばしてみたが、これいって荒らされた形跡は無かった。
金目になりそうな通帳、タンス貯金、テレビやノートパソコン、iPadにはノータッチ。学ラン以外に何も盗られていないようだ。
もちろん部屋中の戸締りは完璧。
玄関も窓も鍵が掛かっている。
なのに窃盗事件発生! ……どうなってやがる。制服だけ盗まれるなんて気味がわりぃな。
(ここ一ヶ月でストーカー、刃傷事件、暴行事件に窃盗事件。一生分の事件と不幸をいっぺんに味わっている気がするんだが……そろそろ那智を連れてお祓いにでも行った方がいいのか?)
その前に物件探しが優先か。
このアパートに住み続けることは現実問題難しい。
親父名義で借りている部屋だし、俺達兄弟は近所で超絶有名人になっちまった。外を歩く度に注目を浴びかねない。引っ越しは必須だろうな。
だけど今度は親父の名義は使えねえし、生活費や学費も親父の懐から出ている。
もしものことを想定して、親父からそれなりに金をふんだくって貯蓄を作っておいたが……これからのことを考えるだけで頭痛ぇなおい。
(やめだやめ、まずは目の前の問題を片そう)
寝室に戻ると、白手袋を嵌めた益田が室内の物を物色する許可を取ってきた。
見られて困るようなものはないから、俺はぶっきら棒に勝手にしろ、と返事する。
するとどうだ。
柴木と手分けして、居間や寝室の物という物に目を通し始めた。勝手にしろ、とは言ったが、部屋の隅に放置している鞄や箪笥やらを無遠慮に開けられると文句の一つも投げつけたくなる。お前ら、もう少し遠慮しろよ。