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 突然だが日本の報道問題を取り上げたい。

 被害者となった人間は好きで事件に巻き込まれているわけじゃない。
 事件にも様々なケースがあると思うし、時に被害者に原因があって事件に発展することもあるだろう。一方で何気ない日常を送っているところに、突然災害のように事件に巻き込まれる場合もある。

 俺達はまさに後者で突然、事件に巻き込まれてしまった被害者だ。

 事件のせいで心荒れているんだから、世間様は被害者が声を上げるまでそっとしておくべきだ。つよくそう思う。

 なのに日本の報道ときたら、むやみやたらに現地取材を行い、事件を引っ掻きまわす。被害者の家付近をうろついて近所に取材を申し込むことも多々。

 結果、被害者の特定に繋がる。

 今は情報化社会だ。
 一たび、世間に名前が広がれば、それは半永久的に残る。ネットに流失したら最悪、それを消す術は皆無に等しい。被害者にとってみれば、二次被害もいいところだ。

 つまり何が言いたいかって、被害者の特定に繋がる報道をするんじゃねえ!

「那智。今日は天気がいいぞ。今から散歩でもしないか?」

「お散歩をしたら、また報道陣に居場所がばれるかもしれません。転院したばかりですし、兄さまに迷惑を掛けます。ああ、そんな顔をしないで下さい。おれは大丈夫ですよ。午前中はドリルをしようと思っていましたから」

 ええい。くそったれ共のせいで、那智の自由が無くなっちまったじゃねえか!

 ここ数日、俺は被害者の報道の在り方について怒り狂っていた。

 理由はしごく簡単、入院している那智の下に報道陣の姿がちらつき始めたからだ。
 どこから嗅ぎつけたのかは知らねえが、病院の外に報道陣が見え隠れするようになった。

 中には患者を装って病院に足を踏み入れる彼奴もいる。おおかた週刊誌辺りのハイエナ記者だろう。通り魔や親父の事件に関して、面白おかしく書きたいのか、一般の患者を装って、被害者の那智を張り込みするようになった。

 いやあ、びっくりしたね。
 病院の中庭を散歩中、俺が飲み物を買いに行った、その隙に弟に声を掛けてきたんだから。

 那智は被害者だぞ被害者。
 なのに、当時の事件模様を聴いてくるなんて、どういう神経をしてやがるんだ。殴り飛ばそうかと思ったぜ、まじで。

 さいわい益田の命令で見張っていた覆面刑事達が、那智から記者を遠ざけてくれたおかげで、事なきを得たが、似たようなことが二度、三度と繰り返されてしまい、那智は転院せざるを得なくなった。

 それだけでも腹が立つのに、弟が一日中病室に引き篭もるようになってみろ? 俺の怒りは最高潮だぞ。