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命を絶った時の想いなど呼び起こせないくらい、私は貴方に堕ちていたのに———。


厘の体温から遠ざかるなか、幸は河川敷での長い日々を思い返していた。


孤独を望んで死を選んだはずなのに、一向に飛び立てない日々。

どうして。どうして。どうして。
首元が異様に伸び切った後の、酷く醜い自分の死体を俯瞰したときから、虚しさが募って離れない。死に場所に選んだ河川敷から、放れられない(・・・・・・)


———『幸子(ゆきこ)。ほらぁ、見て。シロツメクサの王冠。可愛いでしょう?』


たぶん、あの記憶のせいだ。
器用に縫った花の冠を、娘ではなく自分に被せて微笑む女。いつでも自分本意で、男に愛されることがすべてだった母親。彼女はいつでも、自分の人生で忙しかった。


幸せな子、幸子———。そう名付けた彼女の思考に吐き気を催すようになったのは、物心がついてすぐのこと。


あれは、遠足だったか。友だちが幸せそうに紡いだ花冠を、容赦なく引きちぎり壊したのも、ちょうどその頃だった。初めて出来た友だちだった。花は、シロツメクサだった。


“わたしを思って”


その花言葉を知った放課後。幸は友だちの友だちと、さらにその友だちに殴られ、蹴られ。血にまみれた口で高笑いした。一見殊勝に思える言葉も、あの女が思い浮かぶだけでこうも卑しいものなのか、と。