ーーーーリビングの時計を見れば、16時58分だ。

私は、ソワソワとしながら、悠聖の帰宅を待っていた。都会育ちの私から見れば、少し強引で、プライベートに遠慮なく踏み込んでくる美穂子のような人間は、はっきり言って苦手だ。でも此処のような田舎では、そういう密な付き合い方とも言える、ご近所付き合いは、当たり前なのかもしれない。

17時ぴったりにインターホンが鳴り、私は慌てて扉を開けて、絶句した。

「ママー楽しかったー」

満面の笑みの息子は、この家を出た時と違う。

悠聖に着せていた洋服は、青の車がプリントされた、トレーナーとベージュのズボンの組み合わせから、真っ白のスウェットの上下になっている。

「時間ギリギリまでごめんなさいね」

白いスウェット姿の悠聖の手を引きながら、白いワンピース姿の美穂子が、ホワイトニングされた真っ白な歯で笑う。

「この服……」

「あぁ、気にしないで、随分前に買ったのだけど、着る機会がなくて、春人に着せてみたらピッタリ、あ、間違えた、悠聖君に着せたらピッタリだったから、貰って」

「いや、悪いので洗ってお返しします」

美穂子は、長い黒髪を耳にかけながら、首を傾けた。

「遠慮しないで、お向かいさんなんだし。それに何となく、悠聖くんは、春人に似てるのよ」

「じゃあ、また悠聖くん、また遊びましょうね」

「うん、美穂子さん、ありがとう!」

美穂子は、白いパンプスを鳴らしながら、鼻歌混じりに家へと戻っていった。閉められた玄関扉を眺めながら、私の心には靄がかかる。

「ママ?怖い顔してどしたの?」

「悠聖、美穂子さんのこと、美穂子おばさんって呼んでたでしょ?どうして、呼び方変えたの?」

「あ、美穂子さんから、美穂子おばさんより、美穂子さんって呼んだ方が、仲良しみたいでしょ?って言われて、僕もそうだなって思って」

悠聖は、はにかむように笑った。
 
「そうなのね……」

思わず、顔が引き攣りそうになる。

「ダメなの?」

「あ、ダメじゃないわよ。楽しかったみたいで良かったわね。悠聖、お風呂入るから、それ、脱いで」 


ーーーー明日は、ゴミの日だ。


私は、悠聖が着せられていた、真っ白のスウェットの上下を脱がせると、悠聖が、お風呂に入っている間に、それをゴミ袋に入れて捨てた。